検査

「ちょっと、さっきのってどういう事ですか!?」


 指令室に殴り込みをかけたミチルは、ミリヤに向かって怒鳴り気味に言った。


「……ごめんなさい、上からの通達は絶対なの」

「だからって、いきなりテイザーガン使えなんて命令はないですよ!!」


 ミチルは、石堀が舞に向かってテイザーガンを放ったのを思い返しながら言った。


「……こう言っても絶対に納得して貰えないでしょうけど、ザ・ネクストは、ビースト事件の大元であるザ・ワンと互角かそれ以上に渡り合って、尚且つ撃破しているの。そのザ・ネクストの身体データを調べ尽くす事が出来れば、ビーストに対する有効な成分とかがわかるんじゃないかっていうのが上の考えなの」

「『上から』とか『上の』とかって……、上からの通達って絶対なんですか!?」

「…………絶対といえば、絶対なの。その上って、政治家なの。私でも流石に逆らえないのよ」

「…………大人って、面倒くさいんですね」


 ミチルがぼそりと言った。


「…………ごめんなさい」


 ミリヤは、ただただ謝る事しか出来なかった。


「っ、う…………?」


 舞はゆっくりと目を開けて、周囲を見渡した。

 舞は診察衣を着せられ、白く、けして広くない部屋の中で大型犬用のケージに寝かせられていた。


「うへえ、わたしゃ犬かいな……」


 舞は実に嫌そうに言って、自分の体を見て、


「ん?」


 首からかけられていたはずの『エボルペンダント』がなくなり、代わりに首輪が嵌められているのに気付いた。


「ちょっ、何コレ、『エボルペンダント』は!? てか首輪って何!?」


 舞は軽く困惑しながらも、ケージに手をかけた。


「ちょっと、誰だか知らないけど、見ているんでしょう!? こっから出して――」


 その時、ケージと首輪に電流が走った。


「があぁっ!?」


 舞は呻きながら両手を離した。


「い、痛い痛い! わかりました、止めて、止めて、ください!」


 舞がもがきながら言うと、十秒後に電流が止まった。


「はあ、はあ、はあ……畜生……」


 舞は呻いて、気を失った。



 会議室にて。


「……検査結果が出ました」


 『魔法機構日本支部』の研究員の青年が、簡単に纏めた資料を手に言った。


「報告をお願い」


 ミリヤは、手渡された資料をパラパラと捲ってから言った。


「結論から言いますと、彼女はビーストとは別の存在でした」

「…………どういう事?」

「厳密に言うと、DNA検査の結果、『ビーストに限りなく近い存在だけど真逆の存在』でした。つまり……」

「つまり?」

「ザ・ネクストは、『人間をベースにした、ビーストを確実に殺す事が出来る存在』なのです」


 研究員の言葉に、ミリヤは驚愕の表情を浮かべた。


「続いて、ザ・ネクストが身に付けていたペンダントなのですが……、驚く事に、魔法少女の変身システムと酷似したプログラムが組み込まれている事が判明しました」

「……続けて頂戴」

「はい。そのプログラムについてなのですが、あのペンダント、正式名称『エボルペンダント』は、『特定のプロセスを踏んでいる状態でキーワードがザ・ネクストの口から発せられた時に、特殊なパルスを発生させて細胞を活性化、肉体を変化させる』という物でした」

「その『特定のプロセス』と『特定のキーワード』は?」

「『ペンダントの宝石に触れた状態』で、『変身』と言う事です」


 ミリヤは何かを考えるような素振りを見せて、軽く首を振った。


「……どうか、しましたか?」

「……いえ、ここで考えても答えが出ない事を少し考えてたの。ごめんなさい、続けて」

「はあ。……そして、『ビーストに限りなく近い存在だけど真逆の存在』という特性を活かして、ビーストに対する特効薬的な効果を持つ銃弾の作成と、ミチル隊員の『エボルブレスレット』に、新たな魔法を組み込む事が出来そうです。その名も、『ウルティメイトパニッシャー』。ビーストを細胞レベルで完全消滅させる事が出来る魔法です」

「何というか……それは流石に強力過ぎるわね」


 ミリヤは、両腕の二の腕をさすりながら言った。


「どうしてですか? 魔法は強力に越した事はないでしょう?」

「…………そうね、ゴキブリを例に挙げましょうか」


 ミリヤはそう前置き、続ける。


「ゴキブリが、段々と殺虫剤に対して強くなっていってるのは知ってるかしら?」

「は、はあ……?」

「それと同じで、ビーストにも恐らくは魔法に耐性を持つ存在が現れるわ。その時にその魔法を解禁するならまだしも、今から使っていたら、それすら効かなくなるような……『ザ・ネクストキラー』とでも言うべき存在が現れるわ。これはただのカンだけど、何かが私に警告している気がするのよ」


 ミリヤの言葉を聞いた研究員は、微妙な表情で聞いていた。



「うぅー、お腹減ったぁー、お腹減ったよぉー……」


 舞がケージに閉じ込められてから、三時間程が経過していた。


「力が出ない……うぅー……」


 舞が力なく呟いた、その時だった。


「入るぞー……」


 エドが部屋の中に入ってきた。


「あーっ! さっきの! ちょっと、これどういう事なんですか!? わたしゃ犬ですか!? ですよこんな扱い!」


 舞は、エドを睨み付けて言った。殺気に満ち満ちていた。


「……すまない、研究員がこんな実験動物みたいな扱いをしてしまって……」

「本当ですよ! 前いた場所でも、もっと広かったです!」


 舞は、ケージの底を力なく叩きながら言った。


「……すまない……」

「……あの、そのお……、謝罪より、その手に持ってる物が欲しいです……」


 舞が指差した先には、エドが持つ、ダブルチーズバーガーがあった。


「あ……そうか、変身した直後で、蛋白質たんぱくしつを摂っていなかったんだろ?」

「いぐざくとりぃー……」

「す、すまない、食べてくれ。本当は一緒に首から提げてたペンダントを持って来れれば良かったんだが……」


 エドはそう言って、ケージの柵の隙間からダブルチーズバーガーを差し入れた。


「すいません、助かりますー……」


 舞はそう言ってゆっくりと包装紙を広げて、ゆっくりとかじりついた。じっくりと咀嚼して飲み込むと、二口目からは猛烈な勢いで、全くこぼさずに食べ尽くした。


「…………ふう、これで漸く、元気……一倍」


 舞は、普段の調子に戻って言った。


「一倍なのか……」

「まあ、そうですね。とりあえず、ありがとうございます」


 舞はそう言って、ペコリと頭を下げた。


「……君は、これからどうするんだ?」

「えっと……ビーストが出たらすぐにでも脱走しようとするでしょうけど、今はその術がないから、もう暫くはここにいようと思います。このカッコは納得いかないですけどね」


 舞は、肩をすくめて言った。

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