助け合い

 『魔法機構日本支部』を飛び出したミチルは、近くにあったハンバーガー店に入り、適当に注文して、それを受け取ってテーブル席に座った。


「…………」

『……ミチル、ごめん。こういう時、なんて声をかければいいのか、まだわからないんだ』

「…………」

『彼女を助けたいの?』

「……助けたい、けど……どこに運ばれたかがわからない。下手に動いて怪しまれたら、って思うと、下手に動けない」

『そうか……ごめん、こういう時、システムクラックでも出来ればいいんだけど……』

「いや、私の方こそ、こんな所でハンバーガー食べてる暇はっ……!?」


 ミチルは、突然頭を抱えた。


『だ、大丈夫!?』

「大丈夫。……ビーストが出たみたい。それも、一ヶ所に沢山……」

『本当!? なら急いで戻らないと!』

「わかってる。その前にハンバーガー食べてから……」


 ミチルはそう言うと、頭痛で頭が軋むような感覚に耐えながら、ハンバーガーを頬張った。



「っ……」


 未だケージの中にいた舞は、ビーストが出現した事による強烈な感応波を感じ取って顔をしかめた。


「まずいな……あの姿には出来ればなりたくないし……」


 舞は何かに嫌悪感を見せながら言った。


「ああもう、この首輪外れないのかな?」


 舞は、若干苛立ちながら言った。



 ミチルとエドを含むスローレイダー隊員は、大苦戦を強いられていた。

 今、広めの路地にいるスローレイダー隊員の目の前にいるのは、二百体に迫るのではないかと思わせる程のアリビーストの大群だった。兵隊アリビーストも一割程の割合で混ざっていた。


「はあ、はあ、数が多過ぎる……!」


 そう言ったミチルに、アリビーストが襲いかかった。


「っ、『ディバイドランチャー』!」

『Divide launcher、active !』


 ミチルは『ディバイドランチャー』をアリビーストに向けて放ち、アリビーストを爆散させた。


「キリがないぞ、クソっ……!」


 西条が悪態をついた。



「…………」


 指令室でスローレイダー隊の戦闘を見ていたミリヤは、ミチルに言われた言葉を思い返していた。


「…………!」


 ミリヤは立ち上がると、舞の元へ向かった。



 舞が最後の手段を使おうかと思い始めた時、部屋の中に何かを脇に抱えたミリヤが入ってきた。


「……誰です?」


 舞は、力が抜けた声で言った。


「私はここの司令官のミリヤ・シャフト。ミリヤでいいわ。……貴女に謝りに来たの」

「…………何を?」

「…………貴女をこんな目に合わせた原因の一つが私なの。まずはそれを謝らせて。……ごめんなさい」


 ミリヤは、ケージの中にいる舞に向かって頭を下げた。


「…………」

「そのお詫びの印に……これ、貴女の首輪の鍵と、貴女の服。それと……」


 ミリヤは、『エボルペンダント』を見せた。


「貴女のペンダント。……こっちに来て」


 ミリヤの言葉に、舞は無言のまま従い、ケージの柵の目の前まで這った。

 ミリヤは鍵を首輪の鍵穴に差し込み、捻った。それと同時に首輪が外れて、舞の背中を滑って落ちた。

 ミリヤは続けて下着と肌着、服とズボン、靴下、スニーカーを柵の間から中に差し入れた。最後に、『エボルペンダント』を手渡した。


「……ありがとう、ございます。……あの、着替えるんで、向こう向いてもらってていいですか?」

「え、ええ……」


 ミリヤは答えて、後ろを向いた。


 舞は診察衣を脱ぎ捨てると、素早く着替えて、最後に『エボルペンダント』を首から提げた。


「じゃあ……行ってきますね。帰って来ませんけど」


 舞はそう呟くと、勢いよく立ち上がってケージの天井を叩き割って、脱走した。

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