魔法少女の戦い方

 兵隊アリビースト率いるアリビーストの群を駆除した、その翌日の事。

 『魔法機構日本支部』の制服に袖を通したミチルは、エドに連れられて地下三階にある格技場に来ていた。

 というのも、ミリヤがミチルの魔法少女としての地力を見ておきたいと言い出し、魔法を使って戦う先輩としてエドを指導役に選んだからだった。


「……俺、魔法少女みたく変身とか出来ないんだけどなあ」

『はいそこー、ぼやかないぼやかない。現状この日本支部で一番魔法の扱いに長けているのは男の貴方なのよー。貴方以外に講師役に適している人材は今の所いないの』


 エドのぼやきに敏感に反応したミリヤがモニタールームから放送を通じて言った。


「……まあ、いっか。コレたぶん褒められてるんだろうし……」


 エドが溜め息をつきながら言い、


「あの、よ、よろしくお願いします」


 ミチルは緊張した面持ちで言った。


「あ、うん。よろしく。別に敬語なんて使わなくていいよ」


 エドは軽く手を振りながら言ったが、


「で、でも、先輩ですし……」


 ミチルは、遠慮がちに言った。

 

「先輩ったって、『魔法機構ここ』って出来てからほんの三週間しか経ってないよ? 俺は最初期から関わってるだけだし」


 エドは肩をすくめて言った。


「だ、だからですよ。それに、スローレイダー隊の隊長ですし……」

「……あー、わかった、徐々にでいいよ。じゃあ、早速見ていこうか。変身してもらえる?」

「あ、は、はい。わかりました。……行くよ、『エボルブレスレット』!」

『Okay、my master !』

「チェンジマイソウル!」


 ミチルは手の甲をエドに見えるように右腕を曲げ、『エボルブレスレット』の宝石に左手で触れて『起動コード』を唱えた。

 その瞬間、ミチルの体を蒼白いオーラが包み込み、同時に軽い衝撃波が発生した。


『Change Your Body !』


 『エボルブレスレット』から音声が流れ、オーラの中から、フードがない蒼白いローブと黒い指抜きグローブ、白いズボン、茶色いブーツに身を包んだミチルの姿が現れた。


「……あれ? 前は手袋なんてなかったのに」


 ミチルが不思議そうに呟くと、


『Battle suit update、complete.』


 『エボルブレスレット』が答えた。


「え、えっと……?」


 ミチルが軽く困惑していると、


「要は、ミチルの戦闘を基にして『エボルブレスレット』によってちょっとした調製が為されたんだよ」


 エドが補則した。


「は、はあ。そうなんですか」

「まあ、これは開発陣の受け売りなんだけどね。次は、武器を出してもらえるかな?」

「わ、わかりました。『ディバイドロッド』!」


 ミチルが『武装召喚コード』を唱えると、右手の中に白銀の杖――『ディバイドロッド』が納められた。


「うん、大丈夫そうだね。じゃあ次は、俺に今使える最高威力の魔法をぶつけてくれないかな?」

「えっ、ええっ!? だ、大丈夫なんですか!?」


 エドが余りにもさらりと言い過ぎたので、ミチルは困惑した。


「ん? 大丈夫大丈夫。魔法障壁で受け止めるし、ヤバくなったら避けるからさ」

「ま、魔法障壁?」

「んー、アニメ的に簡単に言うと……バリア」

「そ、そんなのも使えるんですね。凄いなあ……」

「魔法障壁の事は後でちゃんと教えるから、とりあえずやってみて」

「……わ、わかりました!」


 ミチルはそう言うと、意識を集中して、


「『ストライクパニッシャー』!」


 ミチルはそう言ってエドに『ディバイドロッド』の先端を突きつけた。


『Strike punisher !』


 『エボルブレスレット』の音声と共に『ディバイドロッド』の先端に蒼白い魔方陣が展開され、そこから極太の蒼白い光線が放たれた。

 エドは冷静に蒼い宝石が嵌め込まれたベルトのバックル――『エボルバックル』を軽く叩いて、


「『ゼットンシャッター』!」


 右手を前に突き出して言った。


『Zetton shatter !』


 同時に機械音声染みた女性の声で音声が流れ、エドの体を水晶柱のような透明の障壁が覆った。

 『ストライクパニッシャー』は、『ゼットンシャッター』に阻まれた。


「うっ……!?」

「もっと、もっとフルパワーでぶつかってきて!」

「うっ……あああああああああああああっ!!」


 ミチルは杖を両手で持って支えて、絶叫した。すると、『ストライクパニッシャー』の輝きと勢いが増した。

 『ストライクパニッシャー』は、十五秒かけて『ゼットンシャッター』に阻まれ、消えた。

 ミチルは、ガシャリ、と『ディバイドロッド』を落として、次いで崩れ落ちた。『エボルブレスレット』の宝石が高速で赤く点滅していた。


『Time over…….』


 光が消えると同時に『エボルブレスレット』から音声が流れ、魔装の展開が解けた。


「はあ…………はあ…………はあ…………はあ…………ど、どうして……?」


 ミチルが困惑しているのは、初めて変身した時よりも早く魔装の展開が解けたからだった。


「魔装の展開にはね、制限時間があるんだ。エネルギーを多く使えば使う程に、その時間は短くなる。今の魔法……『ストライクパニッシャー』、だったかな? それは、連続して使い続けると十五秒しかもたないみたいだね」


 エドは、『ゼットンシャッター』の展開を解除しながら言った。


「さ、先に言ってくださいよ……」

「ゴメンゴメン、こういうのは口で言っても実際にそうならないとわからないからね。そして、これは魔法少女の弱点の一つなんだ」

「どういう事ですか?」

「ビースト細胞の特性として、魔法少女が変身……魔装の展開を解くと、暫く時間を置いてビースト細胞が再活性化するまで待つか、蛋白質たんぱくしつを摂取してビースト細胞を再活性化させないと、すぐに変身する事が出来ないんだ。気を付けておいて欲しい」

「え、じゃあ、今ビーストが出たら大変じゃないですか!」

「うん、だから、ビーフジャーキーとかサラミとか何でもいいから肉類を使った食べ物は常に携帯しておいて欲しいな。という訳で、はい」


 エドはそう言って、ポケットからビーフジャーキーが入った小さな袋を取り出して、その中からビーフジャーキーを取り出してミチルに差し出した。


「……ありがとうございます」


 ミチルは礼を言ってエドからビーフジャーキーを受け取り、口に含んだ。暫く噛んでから飲み込んだ。

 すると、全身に活力が戻ってきたのを感じた。


「……いくら何でも早すぎませんか、これ?」


 ミチルは立ち上がりながら言った。


「俺もそう思うんだけど……そこまではまだ解明されていないんだってさ」


 エドが肩をすくめて言った。


「まあ、便利だから、良しとしておこうよ」

「……ですね」

「ま、そういう事だから、次はどんな魔法を使えるのかを見ていこうか。じゃあ、魔法をイメージしてみて」

「わかりました! その前にまた魔装を展開? してみますね!」


 ミチルはそう言うと、魔装を展開するべく、『エボルブレスレット』の宝石に手を伸ばすのだった。

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