第五話 訓練と実戦

お腹減った

「舞ちゃん遅いねー……」


 手持ち無沙汰になっていた心咲は、スマートフォンをいじりながら言った。


「だねー……。『遅くなりすぎたら帰ってもいいし、何なら冷蔵庫の中のモノを適当に食べてていい』って言ってたけどね」


 同じく手持ち無沙汰になってクッションを抱き締めていた椋は、ぼんやりとした口調で言った。

 心咲と椋は、舞に誘われて、夏休みが始まる前日から宿題を減らすために舞の家に集合していた。


「むっちゃん、何か持ってくるね」

「ん、頼むわ。……あ」

 

 椋の返事を聞いて、心咲が何か食べ物を持って来るべく立ち上がろうとした、その時だった。


「ただいま、お、じょ、う…………さん。いい匂いがするよ」


 舞が音もなく現れ、心咲の肩に顎を乗せて言った。

 心咲は、思わずビクリと震え、動きが止まった。


「え、あ、ちょ、ま、舞、ちゃん……? え? え? ぷ、プロポーズ?」


 心咲は思考が鈍り、顔を赤らめて言ったが、


「え? うんにゃ、お肉のいい匂いがするなー、ってね」


 舞の返事は、心咲の期待する物とはかけ離れていた。


「は、はいい?」


 心咲が、かなり驚いた様子で言った。


「あー……、それって、アレ? 食人衝動云々、ってヤツ?」


 椋が、ほんの少し心配して言った。


「え!? そ、それって、せ、性的に……!?」


 心咲は顔を真っ赤にして言ったが、


「んな訳あるか。単純に、変身した後は猛烈にお腹が減るってだけだよ」


 舞は、至って冷静に言って、心咲の肩に乗せていた顎を離しながら言った。


「ちぇー、なーんだ、つまんないのー。……おかえりなさい、舞ちゃん」


 心咲は、実につまらなそうに言った。


「うん、ただいま」


 舞は少し疲れた様子で答えた。


「……あのさあ、ホントに二人つきあってないの?」


 椋が、若干呆れた様子で言った。


「ん? いいや、別に」


 舞があっさりと否定し、


「これでつきあえてたら私もう幸せ過ぎて死んじゃうよー」


 心咲は、打って変わってほわほわとした雰囲気を醸し出して言った。


「ま、そういう事だからさ、とりあえず何か食べよう。お腹空いて仕方ないし。……あっ、そうだ、冷蔵庫に確か鶏肉が残ってたはず! よし、二人共、家で食べてく?」


 舞が何かを思い付いたかのような口調で言った。


「じゃあ、お言葉に甘えますっ!」


 心咲が元気良く手を挙げながら言って、


「うん、じゃあそうしようかな。一応親には遅くなるって連絡入れておいたから」


 椋は少し嬉しそうな表情になって言った。


「その言葉が聞きたかった! あれだ、片栗粉使った鳥の唐揚げと野菜の天ぷらやろうって思ってたんだ。今日は豪華で楽しい夕食になるよ!」


 舞は、心の底から楽しそうな笑顔になった。

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