第二話 少女達と怪物
説明にもならないけど
「ただいまー……」
舞は、かなり疲弊した様子で帰宅した。
玄関を見ると、心咲と椋の靴が綺麗に並べられていた。
「…………」
舞は念のため一階の全ての部屋を見て回り、心咲と椋がいないのを確認してから、二階の自室に向かった。
舞が二階の自室に入ると、そこには心咲と椋がいて、床に座って待っていた。
「…………待っていてくれたんだ」
舞は、静かに言った。
「……ねえ、あなたは誰?」
唐突に、椋が口を開いた。
「…………」
「舞ちゃんはどんなにヤバい状況でも、あんなに乱暴な言葉は使わなかった。いくらちょっと雰囲気変わったからって、根本まで変わってるのは変だよ」
椋は、舞を見据えて言った。
「…………ここまで、か」
舞は、何かを諦めたかのように言った。
「何が?」
「わかった、心咲、椋、本当の事、話すよ。春休み中に何があったのか。さっきの怪物が何なのか。そして……私は何なのか」
舞は、どこか乾いた笑みを浮かべて言った。
「舞、ちゃん……?」
心咲は、どこか不安そうに舞を見た。
「まず、言うとね……。私は、あなた達の小学校以来の友達である『
「どういう事?」
「椋……、本物の彼女はね、春休み中に、誘拐されたんだ」
舞の言葉に、二人は息を飲んだ。
「犯人は若い男。……もう死んじゃってるけどね。それで、誘拐された彼女は、山梨県の山奥の小屋に監禁されて、それから……」
「そ、それから?」「そ、それから?」
「ナイフでお腹を刺されて……この場合は、死ぬ、姦しいで、死姦かな? ……されかけたんだ」
「え、それってどういう……?」
「心咲、精神衛生的に考えて、深く知らない方がいいよ。心に毒だ」
舞はそう言って、それ以上詮索しないように釘を刺した。
「……続けるね? それで、されようとした瞬間に、私が通りかかって、小屋の窓から中に突入したんだ。男は私の姿を見てパニックになって逃げ出した。……彼女はね、その時はもう手遅れになっていた位に出血していた。その彼女がね、言ったんだ」
舞は、一拍置いて、本物の『真野舞』の最後の願いを口にした。
「『私の代わりに生きて』って、確かに言ったんだ」
心咲と椋からの質問が無いのを確認してから、舞は続ける。
「彼女の真意は、もうわからない。でも、私は……エゴとか独善とかかもしれないけれど、彼女の願いを聞き入れる事にした。私は、彼女が着ていたであろう服を着て、下山した。その後色々とあって警察に犯人の男と一緒に保護されたんだ。男はその時、私の姿を見て発狂して、それで心臓発作を起こして死んだ」
舞は、虚しそうに言った。
「…………証拠は?」
椋が軽く睨んで言った。
「何もしてないのにあの姿に変身出来た事じゃあ、駄目かな?」
「…………じゃあ、とりあえず保留にしておく」
「理解が早くて助かるよ……」
「私の唯一と言っていい程の悪い癖だから、ね」
椋は自嘲気味に笑って言った。
「……あっ、まさか……、舞ちゃんの両親は……」
心咲が青ざめた表情になってその先を言おうとしたが、
「ああ、それは違うよ。私じゃない。あれは本当に不幸な、誰も悪くない出来事なんだ。彼女の両親が乗った車のブレーキが突然効かなくなっただけで。私は何もやっていない。絶対に。何かに誓えって言うなら、何にでも誓える位には、絶対」
舞は、それに重ねるようにして否定した。
「じゃあ……、舞ちゃん、じゃない、あなたは誰なの?」
心咲が言った。
「……私にはね、昔の名前がないんだ。エヌっていう、コードネームから取った仮の名前ならあったけど」
「コード、ネーム……?」
「そう。コードネームだよ、心咲。……二人共、今の私は何に見える?」
不意に、舞は二人に質問を投げ掛けた。
「……舞ちゃんに似た、誰か」
「人間、に見えるけど……」
心咲、椋の順番に言ったが、
「……私はね、実験体なんだ。新しい細胞の」
舞の答えは、それを半ば否定する物だった。
「実験体……?」「実験体……?」
「うん。簡単に言うとね……、新しい細胞が出来たら、私か、さっきの化け物に移植して、人間にどういう効果を与えるのかを確かめる道具。それが私」
心咲と椋は、イマイチ話が理解出来ていなかった。
「……まあ、理解、は、難しいよ、ね。もっと簡単に言うと、実験にはよくマウスっていう白い鼠を使うの。あれの人間版が、私」
舞は、何でもないかのように言った。
「え、でもそれ、人間としてどうなの……?」
「あー、椋。私を隔離していた研究施設の研究員曰くだけど、別に何とも思ってなかったみたいだよ。ほら、オオカナダモとか、顕微鏡で実験に使う時に、薄く刻むじゃない? あの時に、『オオカナダモが可哀想』みたいな事って思った?」
「いや……」
「でしょ? たぶんそれと変わらなかったんだよ」
舞は、当たり前かのように言った。
「…………何よ、それ……」
椋が怒気混じりの声で言った。
「椋、心咲も、覚えておいて。悲しいけど、人ってどこまでも残酷になれるんだ。それこそ、限度なんて全くないかのように、ね」
舞は、虚しそうに言った。
「…………」「…………」
心咲と椋は、それを聞いて、ただ黙る事しか出来なかった。
「……じゃあ、順番が変わったけど、最後に、あの化け物について、だね。あいつの名前は、ザ・ワン。あいつは……、私と同じ存在。新細胞の、実験体」
「でも、あなたはあんな姿にはなってないでしょ?」
すかさず心咲が言った。
「まあね。でも、化け物の姿は、ある。やりたくないけどね。それで、あっちの方が先に実験体に選ばれて、その結果……」
舞はそう言って、目を伏せた。
「……どうなったの?」
心咲が、恐る恐る聞いた。
舞は、心咲を見て、
「食人衝動に駆られるようになって、それに従うようになった」
舞の言葉に、心咲と椋は戦慄を覚えた。
「だから、あいつは施設の最深部に隔離されて、代わりに私が選ばれた。でも、ある日、あいつは徹底的に研究員を食い散らかしてから、施設を脱走した。私はね、その時にそこから逃げたんだ。それで、山奥を転々としている内に、彼女が……されそうになる所を遭遇して、それでさっき言った事が起こって、今に至る……って所かな。こっちを先に説明すれば良かった。ごめんね」
舞は、申し訳なさそうに言った。
「……それで、これからどうするの?」
心咲が舞に言った。
「とりあえずは、ここを拠点にして、ザ・ワンを見つけ出して、倒す。その後は……その時に考えるよ」
舞は、はっきりと言った。
「二人には、悪い事しちゃってたね。……ごめんなさい」
舞は、深々と頭を下げた。
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