シリアルキラー

三重にある、母の実家の大広間。

そこで叔母たち数人に混ざり雑談をしていた。

家主とその息子にあたる従兄は留守にしており、親戚だけで留守番をしている最中だった。

ガタっと、奥の部屋から音がする。

「なんやろか?」叔母の一人がそう首をかしげた。

家は平屋の二世帯住宅だったが、音がした方向は今は亡き祖父母が住まいにしていた部屋からだった。

ちょっと見てくるわぁ、と別の叔母が音のしたほうへ向かっていった。

田舎では窓を開け知り合いが勝手に入ってくることが間々あるので、それほど心配することではなかった。

しかし、敷き詰めらえた砂利の音も、人影もみることもなかったのは不思議である。

誰か来たのだろうかとみなで顔を合わせていると、

ぎゃあぁっ

様子を見に行った叔母が悲鳴をあげたのである。

慌てて残りの面々と一緒に叔母の様子を見に行った。

渡り廊下の途中、物置に続くドアが開いている。

最初の音はここのドアだったようだ。

更にその奥の部屋の戸の前で、皆が凍り付いたように立っていた。

恐る恐る覗くと、畳だったはずの部屋が血の海になり果てていた。

横たわる叔母と、馬乗りになる見知らぬ男がそこにいた。

白いシャツに白いズボンだたったのであろうその服装はもはや真っ赤に染まっており、不衛生に伸びた髪から蛇のような目が覗いている。

私たちを気にも留めず、ただひたすら叔母の腹を刺し続ける。

叔母は血が逆流しているのか、声にならない断末魔を刺されるたびにあげ続け、さながら地獄絵図のようだった。

目の前の惨劇に恐怖を覚えながら、私は必死に叫んだ。

「みんな、逃げて」

我に返った親戚一同、各々悲鳴を上げながら窓や玄関へと一目散に走っていった。

私自身も犯人が入ってきたであろう出入り口から靴も履かずに外へと飛び出した。

振り向く余裕などない、家の前の分かれ道を蜘蛛の子が散るように皆が逃げ惑う。

私は一人、細道のほうへ逃げ出した。

人が一人通れるか通れないか、舗装も粗く転びそうな下り坂だが、民家が多く隠れる場所もある。

ここを下ればすぐに海なのだ。海に行かなくては。ここから離れなければ。


気が付けば渋谷の人ごみの中。私はふらふらと歩いていた。

あのあと、皆がどうなったのか私にはわからない。

今はただ、人ごみに紛れ込んでいるかもしれない殺人鬼の目に怯えている。

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ゆめのはなし 鬼塚 はなこ @xxxxibk

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