第十六幕『信用』
パメラの父と言う老人は、名をモーゼズと名乗った。沢山いる娘たちの中でも特に好奇心旺盛だったパメラの海上好きには予てから危険予知はしていたと言った。
「ついに人間に誘拐されたと知った時には、一帯に捜査網を引いたのだがね、既に時遅し。もう二度と娘と会えぬと思っていた。本当に感謝しておるよ」
ちなみに甲板で立ち話もなんだと船長室に案内しようとしたら、海から離れられないからと断られた。
一部の早寝船員たちが既に寝息を立てている中、夜更かしの船員たちに海に向かってロープ付きの樽を下ろさせ、パメラからの海石を受け取った。現物を手に取った時のメーヴォの不細工ぶりは笑いを堪えるのが辛かった。鼻の穴広がっちゃってるぞ……ぷっくく。
「す……っ……何だこの、大きさと、この透明度。これだけの物が存在するなんて……信じられない」
「我が王国には、海流に含まれる魔力が集まる場所がある。その程度の海石ならば、子供の幼稚なコレクションに過ぎん。パメラにはそんな物は捨て置けと再三言っていたのだがな、人間にとって良い物であれば、命の代償に娘の宝をお渡しするべきであろう」
『私の命の次に大事なコレクションなんだからね!大切にしてよね』
深い青色で、尚且つ夜空の星すらも透けて眺められる透明度の海石で、大きい物は本当に拳ほどの大きさがある。フェリペ司祭の蒼石も霞む程のとんでもないお宝だ!
「娘からの礼はそれ、儂からの礼はこれじゃ」
言ってモーゼズは俺にペンダント状に加工された海洋石を寄越した。海石の中でも特に上質な超高級品の海洋石!その奥には何かの紋章が刻まれている。
「人魚の王国、マグナフォス(Magnafos)の王家の紋章を封じた海洋石じゃ。身に付け易いように首から下げられるようにした物じゃ。それがあれば、人魚には大抵の口が利ける。旅に困った時に役立てなさい」
「……良いのか?海賊無勢にこんな物渡しちまって」
もう返さねぇぞ?悪用したって知らねぇぞ?と視線で訴えれば、モーゼズは貫禄のある老人特有の余裕を持って高らかに笑った。
「娘の言う事を馬鹿正直に信じた愚かな海賊に、これ以上の何を信頼しようと言うのだ」
ああ、なんてこった。大した自信だよ国王様。
「所で船長よ。アンタ方がパメラを取り返してくれたその悪徳商人とやらは、皆殺しにしてしまったのかね?」
「いいや?丁度主犯格の商船船長が生き残ってるぜ」
「なるほど。その捕虜、我々の国で裁きたいのだが、受け渡して頂けるかね?」
まあそう言う事なら仕方ないだろう。マルトを呼んで、商船船長を甲板に連れて来させた。
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