第十一幕『人魚との生活』
「残念ですが、あの傷は治療不可能です」
再度パメラを診察した船医マルトが、酷く残念そうに診断結果を口にした。
「複雑な魔法だったんでしょう。声帯はボロボロで、尚且つ既に傷口が塞がっていて、再手術をするには私の技術では無理です」
相当高度な技術を持った外科医でも、この手術は無理だろうと告げる。何故なら彼女は人魚で、数分なら兎も角、長時間水から上がる事は出来ないからだ。
『……残念だわ。でもお父様となら問題なくお話出来るし、もし婚約を迫られるなら、私の言葉を理解出来ない人はお断りする理由が出来たわ』
ポジティブなのか何なのか。
『人魚に身分や階級があるかどうかは知らないが、お前の出自は悪くないんだな』
『分かる?』
『複数言語を学ばせるのが人魚の一般的な教養レベルだと言うなら僕の憶測もそれまでだが、言語学に精通させるのは貴族や身分が上の者の嗜みだ』
『うんうん、通訳さんは流石だナァ!何を隠そう、私は人魚のお姫様なんだよ!』
『……なるほど、そいつは報酬が楽しみだ』
「メーヴォさん、彼女は何と言っているんですか?」
「自分は人魚の姫君なんだと」
「ははぁ、なるほど。可愛らしい事ですね」
『あぁー!信じてないでしょ?本当なんだから!』
『分かった分かった』
その姫君に診療のお礼にと、自然と離剥した鱗をマルトが何枚か貰っていたから、人魚の鱗にどれほどの効果があるのかを実験するだろう。捕虜にした商船船長で。
航行中、商船側の食事を運ぶのにレヴの影を操る能力が存分に発揮された。
コールとの契約後、影の中にコールが居座るようになった事で、多少ならば物を仕舞い込む事が出来るようになったレヴは、出来上がった食事を影の中に仕舞い、僚船へと影を使って飛ぶと言う曲芸じみた事までやってのけた。どれだけ揺れようとも、影の中は微動だにしないらしく、食事がひっくり返る事もないようだ。結果、彼は毎食毎に食事を運んで船を行き来していた。
ちなみに僕は基本的にパメラの言葉が分かると言う理由で、商船側に乗っている。
「人魚は生かしておいて、時々鱗や肉を少しだけ削いで使えれば良いんですけれどね。流石にエリザベートにこの水槽は持ち込めないですよね」
「私は是非その血を味見したかったですねぇ」
魔族のレヴと高位吸血鬼のコールは、ヴィカーリオ海賊団の良心的存在だと思っていた僕が間違っていたな、と考えて改めた。青い顔をして怯えたパメラを宥めつつ、船で出来なくてもアジトに連れて行けば良かったかもな、と口に出してやった。
『もう!通訳さんも、みんな意地悪!』
泣き真似と共に水槽の端に逃げてしまったパメラだったが、その日の夕食にと鰯がバケツいっぱい差し出されると、あっと言う間に機嫌を直していた。
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