第十幕『人魚の素性』
航行予定の進路を真反対に取り、白魚の船と航路を別つ。男に飢えた女海賊たちには随分別れを渋られた。此方は奴隷上がりたちの集まりで、妻帯者が多い珍しい海賊団だ。女たちを優しく諭すくらいの器量を持ち合わせた者が多い為か、女海賊たちは別れを惜しんだと言う訳だ。
そんな白魚との分かれの後、人魚の少女、パメラから事の経緯をこと細やかに通訳させられた。エトワール副船長が海図を手に彼女を送り届ける先を確認しながら、彼女の鬱憤を晴らすための会話相手になったのだが、通訳として駆り出されるとは思わなかった。
ゴーンブールの東の海、大陸から少し離れたゴーンブール領の島があり、その近海に彼女は住んでいたらしい。昨今の人魚高騰の知らせなど知る良しもない彼女は、好奇心の囁くままに浅瀬の岩場で遊んでいたのだと言う。そこを見つかり、何らかの魔法によって捕縛された。それが慈悲であったかは兎も角、痛みの伴わないまま風の魔法で声帯を裂かれ、そして見知らぬ土地に売り払われる末路を辿るところだった。それを救ったのが僕らヴィカーリオ海賊団だ。
『素敵な人間の王子様って本当にいるのね!』
「残念な事に、私たちは海賊で、誰一人として貴方をお姫様として迎える事はで来ませんけれどね」
苦笑したエトワール副船長を見て、そんな所も素敵よ副船長さん!とウインクしたパメラに、彼はぞっと青い顔をしていた。その性癖も厄介者ですね。
アジトにいる海賊団員の家族を数に入れず、エリザベート号の搭乗員だけで言えば、ヴィカーリオ海賊団は総勢で六十人程度しかいない小さな集団だ。僚船を同じように帆走させる事は難しく、何にしても人手が足りなかった。情報屋レヴの持つ海軍や商船たちの航路情報を元に、多少の遠回りを覚悟し、エリザベートは帆を半分たたんで、二隻は並んでゆっくり帆走した。
「こげな航路取ったら、食料がちっとも足りへんやないか!」
さっさと捌いたら良かったんや、と航路変更に愚痴を零す料理長ジョンを宥めると、気を取り直した彼は結局、人魚は何を食うんや?と彼女の事を気にかけた。何だかんだでこの強面の男は根が優しいのだな、と思うも。
「……これで船長の気ぃが変わったら、つやつやに肥えさせた肉を捌いたるわ」
と目を光らせていたから前言は撤回する。商船から奪い、白魚と折半した食料品でもまだ足りない分は、彼を筆頭とする調理部隊が連日商船の後ろから釣り糸や網を降ろしていた。
パメラは無加工の生魚を頭からバリバリ食べていたから、人魚と言えど人外の魔物なのだと再認識させられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます