第九幕『報酬』
『私を此処で食材とか薬剤にしちゃうのは!勿体ないぞ!絶対に!』
「分かった分かった!で、アンタの持ってる海石ってのはどのくらいの大きさで、どのくらいあるんだ?」
『えぇとね、こう言う小さいヤツから、こう言う大きいヤツまで、えぇーと……何十個かはあるよ!私の大事なコレクションなの!』
小さいヤツは一つまみ程度の大きさを指していたが、大きな物に関しては握り拳を指したぞ今!しかも何十個もだと?
「……それマジ?」
『うん!おおマジ!』
ラースの目が物欲と金欲に塗れて輝き出していた。まあ、そうだろうよ。
「決定だな」
「よぉし、野郎ども!この船を僚船として帆走させる用意をしろ!」
ションボリと肩を落とした約二名を横目に、ラースはエトワール副船長に海図を持って来て場所の確認をするように命じ、船を出来るだけ軽くする為の作業に取り掛かった。
「残念、人魚の肉を食い損ねちまったねぇ」
ニヤリと蠱惑的な笑みを浮かべたオリガは、水晶の壁越しに人魚を一瞥し、命拾いしたねぇと嗤った。
「ラース船長、アタシらはあの人魚に興味は無い。アレを取り分にした分の分け前、コッチに頂こうと思うんだが、いいかい?」
首根っこを掴まれたラースにその拒否権は無いように見えた。
「……何をご所望で?」
「アンタらの砲撃長が作った便利な道具を一つお寄越しよ」
「えぇーっとぉ……」
おっと、いけない。そう簡単にライバルに塩を贈られても困るんだ。
「オリガさん、便利な道具とは言いませんが、良い物があります。少し待って下さい」
言って僕はエリザベート号の自室に走った。
蝕の民の技術を用いた強力な武器や便利な道具を作る傍ら、宝石商を偽る船らしく端材を使って彫金師の真似事をしていたのだ。そんな中で作った物に、幾つかの試作があったのを思い出した。
「月の羅針盤、と呼んでいる道具です。月の位置を正確に示すペンデュラムです」
赤い石のはまった振り子をオリガに手渡せば、不思議そうな顔をしてそれを下げて見せた。
「そうやって吊り下げて、少し魔力を篭めて下さい」
ほんの少しオリガの周囲の空気が熱を帯びた。四つになってしまった大海賊の中で最も血気盛んな女海賊オリガ、炎狐族特有の炎の魔力が漂う程に彼女の魔力は高い。ちかちかと炎が走るように彼女の手からペンデュラムの赤い石に向けて魔力の波が走り、石に吸い込まれた。振り子が震え、それは真っ直ぐに上空に浮かぶ昼間の白い月を指した。
「新月でも月の位置が正確に分かります。航海士に渡せばそれなりにお役に立つかと」
「ウチにはもっと上等な羅針盤があるんだけどねぇ、まあ面白い。コイツで今日のところは勘弁してやるよ」
「……そう言って頂ければ、幸いです。では、コレは僕個人から、貴女に」
薔薇と羽根細工を施した髪飾りを手渡すと、これだから色男は、と彼女はくっくと笑った。
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