第八幕『主張』
「ああ、声帯を潰されていますね」
マルトの診断を受けて、人魚はようやく息を吐いた。風の魔法で声帯を裂かれ、人語を話す事が出来なくなっていた。人魚の歌に船員が惑わされてしまっては元も子もないからだ。声は出ずともその容姿には莫大な金が積まれる事だろう。それ程にこの人魚は美しい。
ちゃぷん、と水の中に身を翻した人魚が、水晶の壁にペタリと手を付いて此方を伺う。
「で、メーヴォは割りといつものアレでソレな感じに、お嬢さんの声が聞こえると?」
アレソレで事を済ませようとするな。
僕、メーヴォ=クラーガは特殊な瞳を持つ古代人の末裔だ。その古代人たちは、特殊な言語を人間たちには聞こえない魔動波、念波に乗せて会話する事が出来たと言う。現に僕もその念波に乗せて従者であり、魔法生物である鉄鳥(てつどり)と会話をしている。
『お父様の言う、多種多様な言葉を覚えておきなさいって教えの意味がようやく分かったわ!お父様の教えは間違ってなかった。私は命を救われたんだもの』
勝手に頭の中に流れ込んでくる特殊な言語で、人魚が誰に向けるでもない独り言を呟く。その顔が命拾いしたとニコニコ笑っている。その笑顔が何処まで続くかな。
「じゃあ取り敢えず、メーヴォを通訳にしてその人魚さんと交渉と行きますかね」
ラースがいつもより偉そうに人魚の水槽の前に立った。面倒なので会話を掻い摘んでおこう。
「俺はヴィカーリオ海賊団の船長ラースだ。アンタお名前は?」
『私はパメラ。パメラ=サッフィールス。ゴーンブールの東の海に住んでたの』
「ほぉ……お嬢さん一応今の立場は分かってるな?」
『そうね!アナタたちが私を助けてくれたのよね。私おうちに戻りたいの!此処からだと海流が逆だから、私の事を運んでもらいたいわ!』
「ちょっと待てよ、俺はさっきアンタの事はウチが預かったって言ったよな」
『だから交渉の場を与えてくれたんでしょう?ねぇ、お願い!おうちに帰れたら、私の持ってる海石全部あげるから!』
「……それは本当か?」
思わずその言葉を確かめてしまった。
「メーヴォは口を挟むなって!」
「海石は強力な魔法石の一種だぞ?」
「そんなのは俺だって知ってるって!今交渉してるのは、俺!」
「……海石の数や質によるが、あればかなりの値打ちだし、良い武器も道具も作れると言う事だけは言っておくぞ」
水の中で身振り手振り、動きの大きなお嬢さんはバシャバシャと水が零れるのも構わず自分の価値をアピールし出した。
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