第二幕『商船は考える』

 一隻だから襲われる。何の抵抗も出来ないままに殺されるのだ、と商人たちは己たちの非力を改めて認識し、手を取り結託する事で力を合わせようとしている。そうしてどうにか生存率を上げようと我々は手を取り合った。海賊など恐れるに足りない。多勢に手を出す事は致すまい。


 そう一昨日の出航間際、三隻の船長たちは大きく背を逸らせたと言うのに。


 ぽたりぽたりと見張り台の上から降り注ぐ鮮血に、我々の思考は停止していた。隣の船ではどしゃりと落ちて来た見張り番に押し潰されて、船員が巻き添えを喰らって死んだ。何処にも船影は見えない。何処からともなく訪れた死の恐怖に、三隻の船はあっと言う間に統率を失った。程なく見えて来た二隻の海賊船に、船上のパニックは最高潮になった。


 ああ、我々が船団を組むのだから、海賊にそれが出来ない訳がなかったのだ。

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