海賊寓話 第二章
面屋サキチ
第一話『海賊と人魚』
第一幕『酒場の噂』
船乗りたちが集まる酒場でいつでも話題になるのは海賊たちの動向だ。
東の海では海神が貴族の船を襲っただとか、北の海では翠鳥がある洞窟から財宝を掘り当てた。西では白魚が海軍の艦隊を沈め、南では金獅子が客船を襲撃した。ある船は幽霊船に出くわしたとか、クラーケンに襲われたとか。真意の程は分からないが船乗りたちは口々に自らの船の航路の心配をした。
「海賊と言えば、最近賞金首の手配書が更新されてたじゃねぇか」
「おうおう、白魚の金額がまた上がっていたっけなぁ」
「それより例の、生け捕りで手配書が回ってる海賊だよ」
「ああ、死神の船か……」
死神の船、と単語が出た途端に酒場の中は水を打ったように声を潜めての会話が始まった。
出会えば死を意味する海賊船。からくも生き残れるような事はない。船は沈められて海の藻屑。搭乗員は全て殺されて死体も上がらない。そこに船が航行していた事実すらかき消してしまう死神の船。
まるで紫煙の用に、死の臭いだけを残して消え去る。そこには血と硝煙の臭いだけが残る。
背後に銃と爆弾、口元には弾丸、その瞳に金環蝕の光が宿る割れた髑髏と言う派手なジョリー・ロジャー。そこ描かれた弾丸にちなんで、その海賊たちを船乗りたちは『死弾海賊団』と呼んで恐れていた。
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