ゼノブレイドクロス――完成するリアルタイムバトル

1章を要約すると、ゼノシリーズの辿った歴史は、RPGが3Dになることで生じるジレンマを乗り越えるプロセスと言い換えることができるかもしれません

1章では、ゼノシリーズのグラフィックから3Dのジレンマの解法を読み解きました

2章では、ゼノシリーズ――とりわけゼノブレイドクロスのシステムから3Dのジレンマの解法を読み解いてみましょう


分かりやすくマリオで例えると、2Dマリオと3Dマリオでは、アクションゲームというジャンルは同じでも、全く同じ感覚で操作することはできません

アクションゲームは3Dになることで、立体空間の把握やカメラ操作などをプレイヤーに求めるようになりました


RPGも3Dになることで、アクションゲームと似たことが起きたのではないか?

2DRPGは、常時俯瞰視点で、キャラクターの等身はデフォルメされた物が一般的でした

2DRPGのフォーマットを、3DRPGで踏襲すると、バトル中視点が統一され、リアル等身のキャラクターが棒立ちしている、珍妙な画面が映し出されるはずです

その他にも、俯瞰視点だからできた隠し通路、宝箱から出現するモンスターなど、デフォルメならではの表現が、軒並み成立しなくなってしまいます

RPGもアクションゲームと同様に、3Dになることでシステムの転換を余儀なくされたのです


岐路に立たされたRPGに、新たに加わったのがオープンワールドというゲームデザインです

オープンワールドは、グランド・セフト・オートなどの洋ゲーがもたらした、どこまでもシームレスに続く広大なマップを、導線に従うことなく自由に探索するという、まさに3Dが可能にしたゲームデザインでした


日本で始めて、オープンワールドをRPGに導入したのは、FF12の松野泰己です

しかし、FF12開発の最中、病に伏せた松野は、SQEXを退社してしまいます

ゼノブレイドが登場するまでの間、FF12を継承するRPGが作られることはなかったのです


オープンワールドは、元来プレイヤーと操作キャラクターを同一視――またはプレイヤーと操作キャラクターの一体感を志向してきたアクションゲームにとって、自然の成り行きでしたが、RPGの新たなフォーマットとなるには障壁が大きすぎました

シームレスにマップが続くことから、移動とバトルは同じマップで行わなければならず、ターンベースバトルをアクションバトルに置き換える必要があったからです


ターンベースバトルからアクションバトルへの移行を知ってか知らずか、オープンワールドが日本に渡る以前から、セガはPSOをアクションバトルにしており、PSOの影響を受けた、カプコンによるモンスターハンターは爆発的ヒットを飛ばします


FFもまた、スピンオフのFF零式やLRFF13――更にはナンバリングのFF15までがアクションバトルとなり、生みの親である坂口博信のラストストーリーもアクションバトルとなりました


オープンワールドでターンベースバトルを作るのは難しい

RPGが3Dになることで生じるジレンマの変奏と呼ぶべき、新たな問題です

この問題に、ゼノシリーズはどう取り組んだのでしょう?


ゼノブレイドのバトルシステムは、MMORPGや洋ゲーのリアルタイムバトルを、日本人が再解釈したシステムです

ゼノブレイドの他には、前述したFF12と、FF12のバトルシステムの元となったFF11がリアルタイムバトルにあたります

FF14、DQ10のバトルシステムも、FF11が元になっています

そして、FF11の元となったのがEverQuestです


リアルタイムバトルは、味方がAIまたは他のプレイヤーになるため、きめ細かな役割分担は、ターンベースバトルほど向いているといえません

だからといって、アクションバトルだとターンベースバトルにあった、マインドスポーツの側面が損なわれてしまいます

ポケットモンスターをやり込んでいる人なら分かると思いますが、ターンベースバトルには、将棋、チェス、トレーディングカードゲームなどといった、マインドスポーツの側面があります

ゼノブレイドのバトルが、AIと協力して溜めたパーティゲージを消費し、AIのアーツを使用したり、AIを蘇生したりできるようになっているのは、2体以上のキャラクターを同時に操作し役割分担する、ターンベースバトルに近づけるためなのです


ゼノブレイドまでのリアルタイムバトルは、ターンベースをリアルタイムベースに置き換えたシステムに過ぎませんでしたが、ゼノブレイドクロスはゼノブレイドのバトルシステムを発展させ、アクションバトルでもタームベースバトルでもない、リアルタイムバトルでしか到達し得ない次元にまで昇華しています


ソウルボイスは見た目がQTEなので、アクションバトルと勘違いするユーザーもいましたが、発生させることができれば攻撃の手を緩めることなく、味方の強化、回復、敵の妨害までできる、リアルタイムバトルならではのバトルシステム

ターンベースバトルでは確率で発動していたスキルを、ソウルボイスに合わせて発動するスキルに置き換えることで、アクションバトルとターンベースバトルのいいとこ取りをしています

AIが有利な状況になればなるほど、ソウルボイスの発生率が上がるため、ソウルボイスが発生しやすい状況をいかに作り出すかが、アクションバトルやターンベースバトルにない、リアルタイムバトルならではの駆け引きになっているのです


従来のバトルでは、効率重視のプレイングはスタンドプレイになりがちでしたが、ゼノブレイドクロスはソウルボイスのおかげで、AIと連携しなければ効率が出せなくなっています

DPSを競うのではなく、ソウルボイスの発生率を上げるため、AIに有利な状況を生み出す――つまりAIを用いたリアルタイムバトルこそ、オープンワールドにおいても、ターンベースバトルと同様に、マインドスポーツを可能とする解法なのです

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