3Dのジレンマ RPG隆盛と衰退のプロセス

田中永慈

第一部

ゼノブレイド――その歴史的経緯

RPGを3Dで作るのは難しい

スクウェア時代からゼノシリーズを追いかけてきた方なら、なんとなく分かると思いますが、ゼノブレイドから入った方はピンとこないと思うので、モノリスソフトがスクウェアから独立した経緯から説明したいと思います


これから述べることは従来のユーザーにとって当たり前のことですが、当たり前のことを知らない新規ユーザーを考慮せず、ユーザー同士先鋭化していった付けが、まとめブログに踊らされるユーザーを生む一因になっている気がするのです

憶測になっている部分があるかもしれませんが、できる限りインタビューなど、確かなソースにあたります


独立のことを述べる前に、スクウェア(現SQEX)のことを述べなければなりません

あまり詳しく述べると横道に逸れるので、ざっくりとスクウェアとエニックスという会社が合併し、今のSQEXになったということだけは押さえておいてください


モノリスソフトの主要クリエイターは独立する以前、スクウェア第3開発事業部に所属していました

第3開発事業部の最も有名な仕事はFF11ですが、それ以前はゼノギアスやクロノクロスを作っていました

モノリスソフトは、ゼノギアス以降、ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)の出資を受け、第3開発事業部から枝分かれした会社なのです


ゼノギアスは、当時FFのグラフィックデザイナーだった高橋哲哉が、FF7のシナリオコンペ用に提出したプロットが坂口博信の目に留まり、クロノトリガー2(のちのクロノクロス)のために集められた第3開発事業部を、ゼノギアスのために貸し与えられ開発がスタートしました

当時新人だった光田康典をクロノトリガーのコンポーザーに抜擢した例に漏れず、坂口のプロデューサーとしての器量が垣間見れる逸話です


なぜ、モノリスソフトはスクウェアから独立することになったのか?

ネットではゼノギアスがミリオンヒットに届かなかったためシリーズ化の目処が立たなかったという話※1を見かけますが、そのあたりの事情は実はよく分かっていません

ただし、当時のスクウェアはCG映画とPlayOnline構想に注力しており、新規IPを作る余裕がなかったのは確かなようで、ゼノギアスの続編を作るには独立するしかなかったのだと思われます


※1

聖剣伝説のキャラクターデザインなどを担当したブラウニーズ社長、亀岡慎一によると100万本リリースが新規プロジェクトの条件だった( http://brownie-games.co.jp/201402051731.php )


モノリスソフトが独立した当時のゲーム業界は、PSからPS2への過渡期にあたり、容量の増加と共に3DCGが爆発的に進化した時期でもありました

3Dの進化はクリエイターとユーザーに福音をもたらすはずでしたが、2Dで培われた技術が廃れたり、開発費が高騰したりと、厄介な副作用ももたらします

このことがスペックに固執した若いユーザーと、グラフィックの進化に否定的な古いユーザーとの間に大きな亀裂を生み、それが今日のコンソールウォーまで続いているのです

そんな中、スクウェアから独立した高橋は、3DCGとプロの声優によるボイスをふんだんに盛り込んだゼノサーガを発表します


アニメーションカットシーンをスクウェアの中でいち早く取り入れたゼノギアスでしたが、高橋の奥深い物語と緻密な世界観を完全に表現するためには、PS以上のスペックを持つ専用機の登場を待つ必要がありました

PS2という十分なスペックを持つ専用機と、ナムコというパトロンを得たことで、宇宙創世から終焉までをえがく、全六部からなる一大叙事詩ゼノサーガの成功を疑う者は誰もいません

ところで、ゼノサーガ発売前のこの状況――なにか思い出しませんか?

今から11年前――PS3が発売された年、ハイスペックマシンによるカットシーンを武器に壮大なスケールの超大作RPGをぶち上げた者達がいたことを……


お気づきの方もいらっしゃると思いますが、ゼノサーガはゼノブレイドとは正反対の工程を経て作られました

制作進行の行き届いたゼノブレイドでは、ゲームのスケールに振り回されず無駄のないプロジェクトを実現しましたが、ゼノサーガはスケールの大きさに振り回されプロジェクトが途中で頓挫してしまいます

スケールの大きさはゲームの中身にまで弊害を招き、カットシーンの完成度が高まるにつれ自由度は失われていきました


エピソード2以降、高橋は更迭、六部作だったゼノサーガは、新たなクリエイターのもと、三部作に改変を余儀なくされます

ゼノサーガは、FF13に7年も先んじて、一本道のクソゲー※2という汚名を課せられてしまったのです


※2

筆者自身が、ゼノサーガをクソゲーと述べているのではないということはご留意いただきたい


月日は流れ――2007年4月27日

バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)は、保有するモノリスソフトの1920株を任天堂に譲渡することを発表

モノリスソフトは任天堂の子会社※3になります


※3

バンダイナムコゲームスが保有していた残り400株も、のちに任天堂が保有。 2017年現在、96.67%の株を任天堂が保有している


ようやく、RPGを3Dで作るのは難しいという問題の全容が見えたと思います

ハイスペックマシンでの挫折が、ゼノブレイドに繋がっているのです

しかし、RPGを3Dで作ることができないというわけではありません

ゼノブレイドには幾つもの可能性があったと思います

その中でも特筆すべきなのがカットシーンなのです


ゼノサーガのカットシーンと比べれば歴然と思いますが、キャラクターの芝居が圧倒的に良くなっています

良くなっているのは芝居だけではありません

カットシーン一つ一つに無駄がない

カットシーンがプレイの邪魔にならぬよう絶妙なバランスで構成されているのです

映像演出に劣るとされていたWiiおいて、ここまで完成度の高いカットシーンを実現したスキルは、HD機においても必ず役に立つでしょう


完成度の高いカットシーンというのは、グラフィックがリアルという意味ではありません

キャラクターが人間のようにリアルでも、芝居が下手なら意味がないということです

RPGのキャラクターは、モデルではなく役者と捉えた方が適切かもしれません

ゼノブレイドはグラフィックのリアルさではなく、昔ながらのデザインや設定に、表現力のあるキャラクターを合わせ、存在感や説得力を生み出しているのです


ゼノサーガやFF13の失敗を無駄にしないためにも、これからのRPGは、ゼノシリーズの辿った歴史を学ばねばなりません

ゼノシリーズが示唆に富むゲームということを、グラフィックを中心に述べましたが、示唆に富んでいるのはグラフィックだけではないのです

次章では、ゼノブレイドクロスを題材に、システムについて述べたいと思います

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