アフリカタテガミヤマアラシ「ハシビロコウさんが私のストーカー…?」

こんぶ煮たらこ

アフリカタテガミヤマアラシ「ハシビロコウさんが私のストーカー…?」

「ライオンとの合戦もようやく一息ついた事だし暫く合戦はお休みにしよう。各自故郷に帰るなり存分に今までの疲れを癒やすと良い」



















初めてライオンとの合戦で引き分けに持ち込んだ52回目の合戦の後のこと。

いつになくご機嫌なヘラジカ様が私達にお休みをくれたんですぅ。

皆は故郷に帰るって言っているし私もそうしようかな。






「しかしヤマアラシもすっかり皆と打ち解けたな」

「そ、そうでしょうか?」

「あぁ!出会った頃とは比べ物にならないくらい成長したぞ」

「出会った頃…」




















~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「うぅ…道に迷ってしまったですぅ…」



この恥ずかしがり屋な性格を直すため故郷から出てきたはいいものの…














「もうここ一ヶ月誰とも話していないですううううぅぅぅぅぅ!!!!」





道を聞こうにも周りには誰もいないし、そもそもこんな調子じゃ誰かいても話しかけられないですよね…。

もう帰ろうかな…うぅ。






「ん?そこに誰かいるのか?」

「ひっ!?」



声のする方を向くとそこには大柄なフレンズさんが立っていました。

立派な角の生えた髪型、そして手には同じくらい立派なヘラ状の武器…思わず様をつけて呼びたくなっちゃうような威圧感と堂々とした佇まいに私は息を呑んでしまいました。




「やぁやぁ私はヘラジカ。ちょうど今修行をしていたんだ。君、ここら辺では見かけない顔だがどこから来たんだ?」

「え、えと…あ…うぅ…」









い、一ヶ月振りの会話…。

えぇ~とこういう時は何て言えばいいんでしたっけ?へろー?はうあーゆー?

ってこれどこの国の言葉ですかぁー!?

あ、緊張で頭が真っ白に…。




「」シュゥゥゥ

「ふ~む固まってしまったな…。おーい、大丈夫か?」

「ひぃ…!?そ、そんなに見つめられると…恥ずかしいですうううううぅぅぅ!!!!」

「うおっ!?!!!?!?」




恥ずかしさの余り顔を逸らそうとした時、思わず後ろについた針がその方を直撃してしまいました。

あぁ……“また”やってしまったですぅ…。




「くっ…まさかこの私に不意打ちとはいえ攻撃を当てるとは…」

「ひいいいいぃぃぃぃぃ…」

「…中々やるじゃないか!」

「へっ…?」












あれ…?怒って…ない?

それどころかむしろ褒められてる…?



「面白い!気に入った!どうだ、私の仲間にならないか?」

「な、かま…?」

「そうだ。実は今ライオンとの合戦の最中で戦力が足りなくてな…きっと皆も喜ぶぞ!」

「え、え?あれえええぇぇぇぇ」












こうして私は事情も分からぬままヘラジカ様に連れられて(と言うかほぼ強制的に)へいげんちほーへやって来ました。

ライオンとの合戦とか一体何を言っているのでしょうか…。

そう言えば前にオマキヤマアラシのアジーさんが言ってたような…。










◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「知ってるかヤマさん?とかいってのはスゲー怖い所らしいぜ」

「えっ…そうなんですか?」

「何でも日々“ちでちをあらうこうそう”…?が繰り広げられているとかいないとか…」

「ちでちを…何かよく分からないけど怖いですううううぅぅぅぅぅ!!」ツンツン

「いだだだだだ!!ストップストップ、ヤマさんストップ!」

「…はっ!?ごめんなさいですぅ…」

「あはは大丈夫大丈夫。まぁだからヤマさんも、もしとかいに行く事があったらくれぐれも気を付けろよ!」







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇













「ひいいいいぃぃぃぃ…やっぱりここは逃げた方が…」



「皆の者、よく聞け!この度我々に新しい仲間が加わった!!」





あああぁあぁぁ!!駄目ですうぅ!もう皆さんの視線がこっちに集まってるですぅ!

と言うか私まだ仲間になるなんて一言も…。



「さぁ自己紹介をよろしく」

「」チーン

「…ヘラジカ様、そちらのお方が緊張で完全に固まってしまっているようですが…」

「ふ~むまたか。…ではこちらから挨拶するとしよう」






「私はオオアルマジロだよー!よろしくねー!」

「シロサイと申します。よろしくですわ」

「拙者はパンサーカメレオンでござる。よろしくでござる」

「」ジィー

「―――ッ!?」ビクゥ



な、何か物凄く睨まれてるですぅ…!?

こ、怖あばばばばばばばばばばばば…





「ハシビロコウ様、お顔お顔」

「ご、ごめんなさい…!私ついまた機を窺っちゃって…。ハシビロコウ…です」



うぅ…謝ってるのに顔がさっきと一切変わってないですぅ…怖すぎますぅ。

お声はとっても可愛いのに…。






「ほら、次は君の番だ」

「はっ、はい…!」



あ、あわわわわわわわわわわわ…。

また注目されてるですぅ…。



「ア、アフリカタテガミヤマアラシの…えと…その…うぅ…」




も、もう限界ですぅ…そんなに見つめられると…恥ずかしくて…



「ツンツンが、ツンツンが止まりません~!!」

『うわああああああぁぁぁぁぁぁあぁ!?!?』
















次の日


「はぁ…」



昨日はほんとに散々な一日でした。

結局あの後皆さん大した怪我もなく大丈夫だと言ってくれましたが正直もう会わせる顔がないですぅ…。

やっぱり帰ろうかな…。



「やっほーヤマアラシちゃん!」

「あっ…オオアルマジロさん…それに皆さんも…」

「何か浮かない顔をしていましたけれどどうかしたんですの?」

「うぅ…実は…」



~事情説明中~




「なるほどねーそういう事だったのかー」

「…はい。だから私もうかえ…」

「よし、じゃあ皆でヤマアラシちゃんの恥ずかしがり屋を直そう!」

「…えっ!?」

「ですわね。ひとりで悩む事はありませんわ」

「そうでござる。拙者達も協力するでござるよ」

「でっでも悪いですぅそんな…」

「何言ってますの?私達はもう仲間ですのよ」

「そうそう!気にする事なんか何もないよ!」

「み、皆さん…」

「よーし、じゃあヘラジカ軍団ふぁいとー」


『おー!!』





こうして皆さんの協力の元、私の恥ずかしがり屋克服大作戦が始まりました。







「とは言ったものの何か良いアイデアはございますの?」

「うーん…そうだ!恥ずかしいと思うから恥ずかしくなるんだよ!だから恥ずかしいと思わなければ恥ずかしくない!」

「…それはただの精神論というものでは?」

「…拙者精神論で一つ思いついた事があるでござる」



カメレオンさんの思いついた事、それは“じこあんじ”というものでした。

何でも心の中で自分に何度も言い聞かせているうちに本当にその通りになっちゃうらしいですぅ。

特に私みたいな思い込みの激しい子にはよく効くとか…ちょっと怖いですが大丈夫でしょうか…。





「いいでござるか…拙者の目をよく見て今から言う言葉を頭の中で繰り返すでござる…」

「は、はい…」

「あなたはだんだん恥ずかしくなくなるでござるあなたはだんだん恥ずかしくなくなるでござる…」




私は言われた通りカメレオンさんの目を見て耳を傾けました。

うわぁ…赤くてとても綺麗な目…見ているだけで吸い込まれそう…って何か段々近付いてきてるですぅ!?

そ、そんなに近付いたら…



「や、やっぱり恥ずかしいですううううぅぅぅ!!」ツンツン

「ぐはっ!?」

「あっ!?ごめんなさいですぅ!!」

「き、気にしなくていいでござるよ…。拙者とした事がつい自分が術にかかってしまったようでござる」

「(…それであんなに近付いてたんですのね)」

「(…あれはマジでキスする5秒前だったねー)」









その後も皆さん色んな案を出してくれましたがどれも改善に至るまでのものにはなりませんでした。




「意外と難しいですわね…」

「じゃあもういっそもっと恥ずかしい事をするとか…」

「そ、それは嫌ですううううぅぅぅ!!と言うかもっと恥ずかしい事って何させる気ですかぁ!?」

「ヘラジカ達にご助言頂くのはどうでござるか?」

「ヘラジカ様かー」













◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







「恥ずかしい?そんなもの拳で語り合えば関係無い!高らかに拳交えればフレンズ~♪というやつだ!…ん?違ったか?」







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








「あー…あんまり参考にならなそうかなぁー…」

「ですわね」



確かにヘラジカ様は私とは正反対の性格…いちいちそんな事で悩む様な方ではないですよね。






「あ、じゃあさ!逆に私達がヤマアラシちゃんの攻撃に慣れればいいんだよ!」

「それでは根本的な解決にならないのでは…?」

「でも私達が慣れちゃえばさっきみたいな攻撃が来ても避けられるし、そうすればヤマアラシちゃんも安心していつか攻撃しなくなるんじゃないかな!?」

「でっでもわざと皆さんを攻撃するなんて私…」

「大丈夫!習うより慣れろだよ!」

「それは私達に言ってるんじゃありませんの!?」








それから私のツンツン攻撃を耐える特訓が始まりました。

最初は私の恥ずかしがり屋を直す為の特訓が、いつの間にか皆さんの為の特訓になっていてちょっとおかしいですぅ。

でもその分皆さんといる事が多くなったからか、不思議と私の恥ずかしがり屋も少しずつですが直ってきているように感じられました。


そんなある日の夜…。












「んん…何だか寝付けないですぅ…」



今日は遅くまで皆さんと特訓していたせいでしょうか…まだ身体が熱くてどうも眠れそうにないですぅ。

ちょっとお散歩でもして涼みましょうか。

一応私夜行性ではあるのですが目があんまりよくないので夜はなるべく出歩かないようにしてるんですよね。







「ん…誰かいる…?」



ちょうど私達がいつも特訓している土俵の近くを通り掛かった時、何かが動いたのを私は見逃しませんでした。

う~ん…でもやっぱり夜はよく見えないですぅ…何か地面に落ちているものを拾ってる…?

その時ちょうど月明かりに照らされてそれはついに正体を現しました。











「ハシビロコウ…さん?」

「!?」ビクゥ

「こんな夜更けに一体何を…」













そこまで言いかけて私は急に背筋がゾッとしました。

だってその手に持っていたのは…













「…そ、それって私の…針…?」

「…ごめんなさい!」タッタッタッ










な………何で謝るんですかあああああぁぁ!?

怖い!!!もう怖過ぎるですぅ!!!!!

あんなに両手一杯に私の抜け落ちた針を集めてどうするつもり……はっ!?まさかこれはストーカーというものなのでは…?

そ、そんな…どうして私が………。
















次の日



「はぁ…結局昨日はあれから一睡も出来なかったですぅ…。それにしても何でハシビロコウさんは私の針を…やっぱりあれはストーカー………」ブツブツ

「ハシビロコウがどうかしたか?」

「ヘラジカ様!?」



一瞬今の話を聞かれてたらどうしようかと思いましたがどうやら大丈夫みたい…?

一応事情が分からない以上この事は黙っておいた方が良いですよね…。

と言うかやはりここは直接ハシビロコウさんに聞くべきじゃ…でも怖いですぅ。



「あの~…ハシビロコウさんは今どこに…」

「ん?ハシビロコウならさっきジャパ警の奴に連れられていったぞ」

「えぇっ!?」








このジャパリパークの平和と秩序を守るジャパリ警察…通称ジャパ警。私達は決して逆らう事の出来ない、そんな絶対的存在にハシビロコウさんが連行された…?


つまり逮捕?


よ、良かったですぅ…これで私の安全も保証され…






「そうだちょうどいい。ヤマアラシ、これからハシビロコウを迎えに行ってくれないか?」

「…え?えぇ~!?」




も、もう釈放されちゃったんですか!?

まさか罪が立証出来ずに無罪放免……?

うぅ…そんな…ストーカー被害は起きてからじゃ遅いんですぅ…。

いやでもそもそもハシビロコウさんが本当にストーカーかどうかまだ決まった訳じゃ…。
















「」ジィー

「」ガクガクブルブル



ってあああああぁぁ!!結局断り切れずに来てしまったですぅ!!

見てる…メッチャ見てるですぅ!!



「…迎えに来てくれたの…?」

「…は、ひゃい!」

「」ジィー



あっ…あぁ……どうしよう……そ、そうですぅ!

今こそこの私の忌まわしき針山を使う時…!

肉を切らせて骨を断つですぅ!!





「わ、私の針で良ければ幾らでもあげるですぅー!!」ブチブチィッ!!

「…き、急にどうしたの…!?」

「いいんですぅ!!だからどうかお命だけは…」

「(うわぁ…)う、うん…分かったから…とりあえず落ち着こう…?」













あれえええぇぇぇ!?何か今猛烈に引かれませんでしたか!?

あぁ…もうこの方が一体何を望んでいるのかもはや私には分からないですぅ…。




「………帰ろっか…」

「…はい…」





うぅ…皆さんの特訓の成果もこの方の前では無力だったですぅ…。

そして私達は終始無言のまま皆さんの待つアジトへと帰りました。



















…せーっの!

『ヤマアラシちゃんウェルカムトゥーようこそヘラジカ軍団へアンドこれからもどうかよろしくねパーティ!!』ヒューヒュー

「…こ、これは…!?」



周りを見ると塀や木々には色とりどりの装飾が施され、机にはジャパリまんや木の実がぎっしり…。

えっ?えっ?何ですかこれ?





「…皆あなたの為に準備してくれたの。これは私達からのお祝い」

「あっ…!?これって…!?」



私の針で作った皆さんと私のおにんぎょう…!?



「す、凄いですぅ…これどうしたんですか?」

「実は…ジャパ警に“そういうの”が得意な知り合いがいて一緒に作ったの」




硬かったであろう私の針は器用に編み込まれ、ガッチリと固く結ばれていました。

凄い…これはちょっとやそっとじゃ解けそうにないですぅ。





「でもこの針どうしたんですか?しかもこれだけの量どこから………あ!」

「そう、皆が特訓してる所から…見つからないように気を付けてたんだけどまさかあんな夜に出歩いてるとは思わなくて…何か変な誤解を与えちゃったみたいでごめんね?」




皆さんはしてやったりな顔でこちらをニヤニヤ見ています。

もしかして最初からこれを作る為にわざわざ特訓を…?

そしてハシビロコウさんは裏でずっとこのおにんぎょうを作ってた…。

…さっきまでの自分が目の前にいたら思いっ切りツンツンしてやりたいですぅ。






「うぅ…皆さん…ありがとうございますぅ…!!」

「やったねー!ドッキリ大成功!」

「ですわね」

「泣くほど喜んでくれるとは拙者達も痛い思いをした甲斐があったでござる」




そして泣き顔でぐしゃぐしゃになった私の肩を優しく抱き寄せながらヘラジカ様が言いました。




「いいかヤマアラシ。ここに集まったのは生まれも種族も全然違う者達だがみな気持ちは一つだ。お前が悩み苦しい時は私達が力になってやる。だからこれからもよろしく頼むぞ!」

「は、はいっ…!!う…うぅ…嬉し過ぎて…ツンツンが、ツンツンが止まりませんー!!」

『うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!?!!!!?!?!?』

























~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「うぅ…思い出しただけでも恥ずかしいですぅ…」シュゥゥゥ

「ははは。誰でも馴れ初めというものは恥ずかしいものだ。しかし悪かったな…成り行きとは言えここまで付き合わせてしまって」

「いえ…私ヘラジカ様と皆に会えて本当に良かったって思ってますぅ。確かに最初は訳も分からず連れて来られて大変でしたけど…」









そう―確かに最初は大変でした。

右も左も分からないまま知らない土地に連れてこられて、そこには知らない仲間がいて…恥ずかしがり屋な私にはそれはもう一難去ってまた一難の嵐のような日々。






でもヘラジカ様と皆はそんな私でも快く受け入れくれました。

私の悩みにも全力でぶつかってくれて…だから変わりたいって思ったんです。


私の為に頑張ってくれた皆に恩返しがしたい、

そして何よりそんな居場所をくれたヘラジカ様に報いたい…

恥ずかしがり屋を直したいという私の願いはいつしか皆に対する願いに変わっていました。

だから私は変われたんだと思います。















「ふふ…そうか。本当に成長したな、ヤマアラシ」

「あ、ありがとうございますぅ…!」

「さぁ、君にも故郷に待たせている者がいるのだろう。早く行きたまえ」

「はい!」





待っててアジーさん。

私、変われたよ―――!!

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アフリカタテガミヤマアラシ「ハシビロコウさんが私のストーカー…?」 こんぶ煮たらこ @konbu_ni_tarako

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