計画。

 厳海湾げんかいわんには、その名が示すとおり、いたるところに大きな岩礁があり、海は常に荒れている。巨人族タイタンズがあまりにも激しく足踏みをしたため、岩礁ばかりになり、上記したとおり、岸壁はすべて、巨人族が持ち上げたから、垂直に切り立っている。海は常に巨人族でもたっていられないほどの大荒れである。長老たちが推測するに、風と海流がぶつかっているためだそうだが、その海流を正確に把握している長老は一人もいなかった。

 しかし、巨人族も一箇所だけ足踏みをしなかった。そこを船着き場とし、厳海湾の住人はわずかばかりの船を出し、岩礁地帯を避けに避け、わずかばかりの漁場で魚を取り、ほそぼそと暮らしていた。この暮らしは、私が尋ねた時と、このドラグが訪れたころ前1044年とほぼ変わりない。

 ただ、私が訪れたときと、ドラグが訪れたときと一点だけ違う点があるのだ。

 この当時は、厳海湾を西に望むと、島が見えた、いや島というより、それは、巨大な岩だったそうだ。上部をそそり立たせた、巨大な岩で周りはもちろん厳海湾と同じくゴツゴツした岩場に激しく打ち寄せる大波。船などが近寄ることなど不可能だった。

 その島は丁度湾より、70ルードぐらいの距離にあり、住人からは、オンリー・バーズ"鳥のみ島とりのみじま"と呼ばれていた。

 オンリー・バーズは、上部をそそり立たせてはいるが、その岩肌自身は城壁のようで内側が、しっかりとあるように見えたという。しかし、その岩肌の山頂は頭部から煙を吹き、あまねくは火柱をあげているときもあった。島そのものが巨大な火山なのだ。

 そして、もちろんオンリー・バーズに近づけるのは、鳥たちのみ。

 鳥がオンリー・バーズの近くを旋回しているのは、確認できても、鳥の巣がオンリー・バーズにあるのを見たものはいなかった。

 そうなのだ、この島はオンリー・バーズですらなかったのだ。


 厳海湾でも、このオンリー・バーズに渡ろうと挑戦するものは今まで幾人も居たそうだ。

 しかし、ことごとく命を失った。

 ある者は、海流に流され、ある者は、岩礁に叩きつけられ、ある者は、火山より吹き上がった岩石の直撃を受け。

 もっと波に負けない大きな船で渡ればいいと思うかもしれないが、大きな船は厳海湾のただ一つの停泊所に入ることができなかったのである。

 この海域で海上で生きていること事態が奇蹟のようなものなのだ。

 ましてや、オンリー・バーズに渡るなど考えてはいけないのだ。

 いにしえ巨人族タイタンズでも無理だっただろうというのが、湾の長老たちの大昔から未来永劫続く、不当不変ふとうふへんの意見だった。

 

 しかし、ドラグの目的は、この島にある様だった。事あるたびに、岸壁の上に立ち、オンリー・バーズをまるで娶るための女でもあるかの如く、ながめ、にらみ、のぞんだという。

 

 ドラグには、一つ勝算があった。船でオンリー・バーズに近づくから、波や岩で木っ端微塵になるのだ。

 泳いで渡ればどうであろう?。

 ドラグが高等院に通っていれば、もう少し考えが変わったかもしれない。この島を臨み、死んでいったものが最終的に船から放り出されて死んでいることに気づいていたのか、気がついていなかったのか、、、。

 92歳の<ヘルム・ザ・バイト噛みつきヘルム>こと、ヘルム・ブレイダスにもわからないという。

 まぁ、もともと悲餓死ひがし"の<泣き叫ぶ岩面の原>を己の足のみで越えてきた男だ(最初は馬かなにかに乗っていたかもしれないが、最終的には己の足だった)基本こういう思考をするの男なのかもしれない。

 また、この男を侮れないのが、ドラグは準備として恐ろしく長い、スルルギのつたで編んだ縄を用意するようになった。

 考えれば、たった、70ルードである。往復出来るぐらいの縄を用意するのは可能であろう。

 ドラグは、スルルギのつたの縄をある日、作りきった。長さ丁度100ルード。

 30ルード余分があれば、オンリーバーズ上陸の後、島内で活動が出来るであろう。

 そう思っていたにちがいない。

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