第13話
「久しぶりの地元はどうだった?」
車に乗り込んでどんっ、と運転席のドアを閉めながら駿は言う。
「うん、まあ。相変わらずだったよ。」
後部座席にキャリーケースを詰め込んで助手席に座った私はシートベルトを止めながら返事をした。さっきから駿の顔を真っ直ぐに見れていない。それは多分、少しの罪悪感からだというのは気付いていた。駿が来るまでホットコーヒーを飲みながら柳瀬君のことを考えていた。そして駿が迎えに来てからも変わらず、私の頭の中には柳瀬くんがいる。柳瀬くんのことを考えながら、駿に笑顔を向けるなんて器用な真似、わたしには出来ない。
「良かったよ。」
駿は言った。
車はロータリーをゆっくりとバスの間をすり抜けて回る。窓の外ばかり眺めながら、視界も同じように回った。
「良かったってなにが?」
「結衣が、東京に帰るのが嫌になったんじゃないかと思ったからね。」
「なに言ってるの、あるわけない。」
自分でも驚くほど、きつい言い方になった言葉にやっと、ちらりと運転席の駿の方を見た。駿は目線を前に向けたまま、困ったように微笑んでいる。
「ごめん、でもね、さっきの電話にしてもあまり元気そうに聞こえなかったから。もしかしたら、と思ってさ。...だから、どうしても迎えに来たかったんだ。」
最後の方は少し小声になりながらそう言って駿は、ははっと笑った。強引に迎えに行くと釘をさしたのは駿なりに引っかかるところがあったからか。
「待たせてごめんね。俺のワガママだったよね。」
「ううん。ごめん。」
私がそう言うと、ちょうど信号が赤になって車が停止したタイミングで左手が私の頭を撫でる。
「今日、この後どうしよう?お昼は食べたの?」
場の空気を変えるように明るい声を出してくしゃくしゃと頭を撫でる駿に、また罪悪感が私を締め付ける。駿の左手から逃げるようにまた顔を窓の方へと向ける。駿は優しい。優しいし、私を大事にしてくれる。この温もりにも掌にも今までずっと助けられて来て、そんな駿と話しているのに、まだ心のどこかで柳瀬くんのことを考えてしまっている自分自身が嫌だった。今は、なんとなく、駿の優しさが私自身を惨めにさせて辛い。
「今日は、帰るよ。」
小さく呟くと信号が青になったのか左手をハンドルに戻して「わかった。」と呟いた駿は車を家の方へ走らせた。
なんだか気まずくなって、それは間違いなく私のせいだけれどその後はもう、なにを話したのか思い出せないくらいにぼんやりと窓の外を眺めていた。あまりにまじめに返事をしない私に呆れたように駿が笑って、それから黙り込んでしまったのは覚えている。
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