第11話

滑るように新幹線が駅のホームに滑り込む。窓からホームに立っている人たちのいくつもの顔が通り過ぎて、やがて、がたん、と小さな揺れの後、ドアがスライドして開いた。車内の人たちは我先にとキャリーケースを網棚から下ろして外に出る。最後の一人になるまで待って、私もキャリーケースを網棚から下ろしiphoneを取り出した。


二度のコールの後『もしもし』と小さく掠れた声が電話越しに聞こえた。周りのがやがやとした後に紛れて聞こえにくい。ポケットを探ってイヤホンをつける。


『あれ?ゆい?聞こえてる?』


「ごめん、聞こえてる。」


『なんだ、電波悪いのかと思ったよ。』


そういって駿は欠伸を一つした。


「東京駅着いたよ。」


私が言うとがたがたっと物音が聞こえて遠くで『えっ、もう11時過ぎてる!』という声がした。慌てて布団から飛び起きた駿の姿を想像したら思わずふふっと笑いが込み上げる。


『ごめん!すぐ迎えに行くよ!』


さっきまでの眠たそうな声と違って慌てたように言う駿に東京に戻ってきて良かったと改めて実感する。


「無理して迎えに来なくて大丈夫だよ。電車で帰るね。」


そう言ってキャリーケースの持ち手を握りなおして改札口の方へと歩き出す。平日の昼間だと言うのに人の絶えない駅の構内を歩いて地元とのギャップに安心した。誰も私をみていないし、誰も私なんて知らない。興味なんてない。柳瀬くんも、東京に来ればいい。そしたら、誰も彼の耳が聞こえないなんてことに気付かないし、彼が京都にいたことも知らないし、きっと彼なら東京の孤独と上手に付き合えるはずだ。そんなことを唐突に思って、慌てて首を振った。柳瀬くんと私はもうあれきり会うこともないから、考える必要もないのだ。


『ねぇ、聴いてるの?』


イヤホンから駿の声が聞こえる。そういえば電話の最中だった。


「なんだったっけ。」


『スタバでまっててって言った。』


「日本橋口のところ?」


『そう。迎えに行くからね。』


「わかった。」


『迎えに行くよ、じゃあ。』と駿は念押しして電話を切った。こういうところ、彼は意地でも譲らない。本人は自己満足だと言っているけれど、その自己満足が人のためにならなかったことはないから、それはもう自己満足と言えるのかどうかわからない。結局迎えに来ると言う駿を待つために私は人ごみの中を小さなキャリーを引きずって約束の場所へ向かった。

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