第10話

随分と、二人とも黙り込んでいた。すっかり暗くなった空の下で肌寒く感じるような風が吹く。iphoneの時計を見ると時刻は午後の六時を指していた。小林君と別れたのが五時過ぎ。あのまま、1時間くらい、柳瀬くんといる。外の暗さから、もう少し時間が経ったように思ったけれど、この町の夜は、東京よりもはるかに早かった。

つん、と鼻につく焦げたような匂いがして、同時に冷たく湿った風が肌を舐めるように吹く。


私はこの風を知っている。


「雨。」


そう思ったと同時に、柳瀬くんが小さく呟いた。彼も、私と同じようにこの風を知っていたみたいだ。小さく頷くと「なんや、君もか。」と彼は緩く微笑んだ。妙にシンクロしたような気がして、私は思わずふふっと笑った。


「君、東京へは明日帰るんか。」


緩んだ顔がきゅっ、と閉まるのが自分でもわかった。小さく頷くと「残念やな、」とぼやく声が聞こえて、曇りだした空を仰ぐように見上げる柳瀬くんが少し寂しそうに見えた。寂しそうに見えた、のはきっと私が寂しかったからだろうけど。なぜか、自分でも不思議なくらいに柳瀬くんを見ていると切なくなる私がいて、でも、それと同時に東京で待つ駿の顔が浮かんで、柳瀬くんとこの町を追い出すように頭を軽く振った。私がこの町を恋しく思うはずもなく、この町の誰かを切なく思うはずも、あってはならないことだと思った。

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