第9話
街灯がジリジリと音を立てて白くぼんやりとした明かりで私たちを照らしている。正直なところ、逃げた、と言われるのは図星で言い返せない。私はこの町から逃げた。朝起きれば、昨日までのことを全て知ったような顔した人たちが溢れる町から。私の孤独を奪うこの町から。逃げて逃げて、東京に行った。東京は孤独で、寂しくて夜は眠れないと同じような田舎から来た同級生は言っていたけれど、わたしには東京の孤独が居心地よくて、もうこの町には帰ってこないと決めた。
黙り込む私の前、柳瀬くんはじゃり、とスニーカーで白い石を踏み潰した。石は砕けて白い粉になって、砂利道に紛れた。
「ぼくは、逃げられへんかった。」
顔を上げると柳瀬くんも踏みつけて砂利道に紛れた白い石を見ていた。唇をきゅっと結んで、もうそれ以上は話しそうになかった。柳瀬くんは、柳瀬くんも、この町から逃げたんだ。逃げて逃げて京都へ行ったんだろう。
だけど、まだこの町に囚われている。
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