第7話

「今日は無理言うてごめんなぁ。」


隣で、記憶と違わない可愛い笑顔で小林くんが笑っている。身長は面影を残さずに、随分と大きくなってしまっていたけれど。それでも、矢張り小林くんは小林くんだった。


兄に言われて結局、東京へ帰るのを一日ずらすことになった。その1日で、こうして小林くんと会っている。変な感じだ。地元に帰っても、もう誰とも会うつもりはなかった。必要がなければ、家族とも会いたくなかったのだ。それが、今、地元にいた頃には殆ど関わらなかった小林くんといる。不思議で、矢張り依然として、不愉快だった。


「全然、大丈夫。東京へは明日帰るけれど。」


「そうがぁ。あ、ここ、あれや。柳瀬の家やで。」


小林くんは川沿いから細い一本道へ入り込んだあたりで大きな木の横の家を指差した。

柳瀬、と言われてもすぐには顔が浮かばないけれど、「そうなんだ。」と話を合わせる。


「あいつなぁ、大学の途中で京都へ引っ越したんや。覚えとる?柳瀬 徹。せやけど、耳がな、あかんようになってもうて、また帰ってきたんや。家族共々な。」


柳瀬 徹、と言われてぼんやりと記憶にあるような気がしたけれど、興味もなくて考えるのをやめた。そんなことよりも、耳が駄目になるとか、京都にいたとか、よくも軽々しく、ぺらぺらと人のことが話せるものだ。小林くんのせいじゃない、わかっていても、この街に住む人間すべてを嫌いになるだけの理由を、この街の人は矢張り持っている。


「もう帰るよ。」


これ以上、一緒のいるのはしんどい。もう、この街と関われない。


「そうが、ほんまにありがとぉな。話せて良かったわぁ」


「こちらこそ。」


小林くんは突然、帰ると言った私な嫌な顔一つせずほんなら、と手を振って細い道を歩いていった。きっと、彼ももう帰りたかったのかもしれない。

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