第2話
山間をたった二両のローカルな電車が走り抜ける。トンネルを何度も抜けると懐かしい風景が広がった。訛りの入った独特のイントネーションで運転手の声が聞こえて、ぼんやりと、四年前の地元を思い出す。
何が嫌だったのかは、もう特に覚えてはないけれど訛りの入った話し方も、知らないおじさんから我が子のように話しかけられることも、自転車で横断できてしまう町の小ささも、30分に一本しかこない電車も、駅から家までの長い道のりも、入っては行けない山のことも、全部全部嫌いだった気がする。
駅を出ると真っ直ぐに家へ向かった。多少の変化はあるものの、やっぱり東京の四年間なんてものをすっ飛ばしそうになるものが地元にはある。目の前の川を渡って長い田圃しかない道の間を進む。
「あれぇ、あんたぁ結衣ちゃんやろぉ?」
不意に田圃の中から声がかけられて、どっと汗がでる感覚が体を襲った。ゆっくりと声の方を見ると、泥だらけの老人が私を指差していた。
なにも言わず黙っているともっと後ろから声がした。
「結衣ちゃん?」
「せやぁ、遠野さんとごの、ほれ、結衣ちゃんやぁ。せやろぉ?」
「ああ。あのぉ。久ぁじぶりにみだなぁ。」
「おかぁえり」
「お久しぶりです。」
そう言って逃げるように早歩きをした。田圃を抜けるとすぐに商店街が見えて、まだ活気のある人の声が聞こえた。また同じように汗が背中を伝う感覚がして、商店街を使わない回り道を選んだ。この回り道も、覚えているのが不思議だった。そういえば高校の時は駅へ行く時、何度もこの回り道を使った。この汗の感覚も高校の時に毎日感じていたものだった。早く東京へ戻らないといけない、そう思えば思うほど早歩きになった。
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