六回裏の攻防 7

大八木が投げたカーブは真ん中から低めへと落ちていく。三反崎は必死だった。何故なら、当初からカーブを狙い球としてずっと待っていたからだった。しかし、ボールは予想以上に変化し、今にもワンバウンドしそうなほど落ちていく。


三反崎はすでにスイングを始めていたが、その急激な軌道の変化に対応できず、体勢を傾かせながら、それでもボールに食らいついた。



「打てえー!三反崎ーー!」



ベンチから聞こえたのは森国の声。


その声で三反崎の気持ちが吹っ切れた。


「うおぉぉー、当たれえぇぇぇー!」


普段は闘志をそれほど表に出さない三反崎だったが思わず声が出た。その声に呼応するかのように、振り始めていたバットはワンバウンドしたボールを再び地面に叩きつけるかのような角度で当たった。

三反崎は一度打席内でよろめき倒れたが、すぐさま立ち上がって走り出した。



「石川ーー!走れえぇー!」

ベンチから再び発せられた森国の声。三走の石川はその打球が叩きつけられたのを見て迷わずスタートした。打球は少し高いバウンドになったものの、大八木の真正面。


大八木はしっかりと補球してキャッチャーへと送球する。石川はホームベースに、回り込むようにヘッドスライディングした。キャッチャーは大八木からのボールを受け取ると、少し距離があった石川に向かって飛びつくようにタッチに行く。


タイミングはほぼ同時。





「セェーーフ!セェーーフ!」




「うおっしゃあー!」

天を仰いで喜ぶ石川に、観客からのこの日一番の大歓声が降り注いだ。

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