六回裏の攻防 1

六回裏を迎えたレッドスターズ。攻撃は先制のホームスチールを決めた石川からである。


もちろん、ダイヤモンズバッテリーの警戒心は最大限に達していた。


投手にとって、俊足のランナーというのはそれほど厄介なのである。強打者と対峙したとしても、その打率は良くて三割。一方で、走塁に関しては好不調の波が少ない上に、投手の集中力を削ぐ効果もある。


どれだけ制球力のある選手であっても、一塁ベース付近でスタートを狙っている走者がいれば、少なからず気になるものである。


そういう意味でも先頭の石川の意味合いは大きかった。逆に、石川を打ち取ればダイヤモンズにとってかなり楽になる。おそらく大八木はこの回でマウンドを降りることが濃厚で、本人も最後の力を注いでくるだろうと森国は予想していた。


「さて、どうすれば良いものか」


レッドスターズベンチでは森国が首を捻っていた。本来の作戦であればホームスチールの1点を守り切って終わるのが理想だった。しかし、同点に追いつかれた今、新たに得点を奪わなければならない。


と、バッターボックスの石川がネクストバッターズサークルの鮫島に近寄り、何やら耳打ちをする。そして、打席に向かった石川。すると今度は鮫島がベンチへと戻ってきて森国に伝言を伝えた。


「あの、監督、石川が『好きにやらせてください』って。必ず出ます』って言ってるんですが」


その時にはもうすでに大八木は第一球を投げようとしていた。そこから何か作戦を考えたとしても、指示している余裕はなさそうだった。


「そうか。それなら、石川がそこまで言うなら、任せよう。信じるしかない」


レッドスターズベンチの視線は石川に注がれていた。

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