雑草 2
その日の試合が終わった後、森国は未だに苛立ちを抑えられないでいた。
「まだ、戻ってこないのか、あいつは」
ロッカールームで坂之上にそう訊いた森国は、荒々しく端のベンチに腰を下ろした。
「はい、それがまだ。連絡も全然ありませんし、携帯も繫がりません」
森国が恐れていたのは、この影響がチーム全体に広がることだった。今回は栃谷たちを連れておらず、一人であったものの、その一人が急遽、全体行動を抜けるとなると、ほかの選手たちに示しがつかない。「俺たちも休んでいいんじゃないか?」という空気が流れ始めてしまえば、目も当てられない。
坂之上の携帯が鳴ったのはそれからすぐだった。
「相沢からです」
そう森国に伝えると、坂之上は携帯の通話ボタンを押した。
「お前、今、どこに居るんだ?」
「ああ、すいません。実は今、大阪に来ていまして」
「はあああ?!大阪だと?!」
森国も顔をしかめてしまうほどの大声で坂之上が叫ぶ。森国は、その電話をひったくり、相沢を問い詰めた。
「森国だ!お前、一体何やってんだ!」
怒気を含んだ声にも、相沢は冷静に返答した。
「監督、そこまで怒らないでくださいよ。もしかしたら、主力級の選手がチームに加わるかもしれないんですよ」
「はあ?もう、訳の分からないことを云うな!」
もうすでに、何人かの外国人選手は加入し、市民球団であるレッドスターズには新しい選手を獲得する余裕はない。相沢の云っていることは、森国には一切理解できなかった。
「いや、本当の事ですよ?しかも、監督が求めていた先発ローテーションの中でも中心として活躍してくれると思います」
「そんな余裕は、今、うちの球団にはないんだよ!」
相沢は「フフッ」と乾いた笑いを発して、もったいぶりながらも答える。
「そんな余裕は、無くても良いんですよ。うちの球団の財政が厳しいことくらい、自分だって分かってますから。ただ、その選手獲得にかかる費用は監督が思っているよりも遥かに安いはずです」
「ほう、一体いくらなんだ?」
相沢はゆっくりと受話器の向こうから答えた。
「タダです」
「俺を舐めてるのか?」
「舐めてないです」
「それじゃ、からかってるのか?」
「俺はいたって本気です」
「そいつは本当に活躍するのか?」
「はい、間違いなく」
「それじゃ、明日ここに連れてこい」
相沢は「分かりました。監督もきっとビックリすると思いますよ」とだけ森国に伝えた。
電話を切った後、森国は坂之上に電話を返す。
「一体、どんな話しだったんです?」
森国も未だに相沢の意図が掴めないでいた。
「明日、相沢が凄腕の投手を連れてくるらしい」
坂之上も「どういうことですか?」と森国に質問したが、森国は「俺にも分からん」と答えるのが精一杯だった。
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