雑草 1

相沢はひたすらに電話を掛けていた。場所が場所であり、栃谷の件で一度、県外に出てしまっていたこともあって、もう一度本州へと戻るのは流石に気が引けた。ただ、それでも、藤堂という人間が、選手が、ここまでどのような道を辿って来たのかが、相沢にはどうしても気になった。


藤堂は大阪府の甲子園常連校出身だ。栃谷から聞いた藤堂についての話では、そこでは芽が出ず、三年の夏まで控えの座に甘んじていた。だが、同じ大阪の大学に進学してから地道に力を付けてきたらしい。


電話をして、より詳しい事情を知る人を紹介してもらい、またさらに電話を掛けるーという作業を繰り返していた。すると、それほど時間を掛けることなく、一人の男性へとたどり着いた。


「はい、尼崎(あまがさき)ですが」


携帯電話の向こうから響いてきたのは、低く、くぐもった声だった。


「突然すいません、レッドスターズの相沢と申しますが」


相沢がそう切り出すと、尼崎は「知ってるよ」と呟く。

「ありがとうございます。こんな高齢入団の投手を知っていてくださるなんて」


「それで、俺に何の用だ?」


「尼崎さん、あなたはうちのチームにいる藤堂選手が少年野球チームにいた時の監督さんだったそうですね?」


尼崎の呼吸が向こう側でわずかに乱れたような気がした。


「あ、ああ、確かにな、やってたよ。あいつは俺の教え子だ。それで、それが一体どうしたと?」


相沢は尼崎に向かって確信めいた口調で求める。


「教えて欲しいんです。彼が何故、現在のような形の投手になってしまったのかを」


尼崎はしばらく沈黙を貫いていたが、やがて「君は分かったんだな。今の彼の違和感についてを」と言って藤堂の幼き頃の話を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る