招かれざる男 3
系統としては鮫島に似ているかもしれない。何処となく排他的な雰囲気で、我が道を行くタイプの人間だろう。
ただ、鮫島と明らかに違うのは、特定の人間に嫌悪感を表しているという訳ではなく、周囲のすべての人間に対して敵意を抱いているように見える。
藤堂はロッカーを開いて担いでいた自分のバッグをその中に入れると、何やらその中を探り始めた。
「あの、藤堂君?」
相沢がゆっくりと藤堂に近づく。そして聞こえるかどうかというボリュームでそう、話しかけた。が、あっさりと無視されてしまう。
ただ、それも当たり前だった。
藤堂は耳にイヤホンを着け、音楽を聴いているようだった。
坂之上が「おい、相沢。こう言うのも何だが、なるべく絡まない方が…」と警告するが、相沢はこちらに気づいてもらおうと、直接、藤堂の左肩をトントンと叩いた。
「バチン」っと大きな音が響く。藤堂が瞬間的に相沢の手を勢いよく振り払ったのだった。そして、恐ろしいほどの表情で激昂した。
「おい!てめえ!何すんだよ!俺に触んな!」
相沢はその過剰な反応に戸惑いを隠せなかった。
「ああ、すまん。イヤホン着けてたからさ」
イヤホンを未だに着けたままの藤堂にその声は一切届かなかったようだった。しかし、言いたかったことは伝わったのか、「一つ言っておく!俺に構うんじゃねえ!」とだけ吐き捨てて、さっさとグラウンドの方へと出て行ってしまった。
「やっちまったなあ」
そう、苦笑いする坂之上に相沢は一つ気付いた事を質問する。
「あの、藤堂君って投手でしたよね?」
「ああ、そうだが」
「確か、右投げでしたっけ?」
「ああ、右のオーバースローだな」
「打席は、どちらです?」
相沢の質問の意味が分からず、坂之上は多少憤りながら「確か左打ちだったかな」と答える。
その答えを聞き、相沢は何やら考え込み始めた。
「おい、相沢、一体それがどうしたんだよ」
その言葉に相沢は一切耳を貸さず、首を捻った。確かに、右投げ左打ちである事もありえない話ではない。ただ、何かが引っかかる。
「坂之上さん、ちょっと、一つお願いがあるんですが…」
坂之上は不吉な予感を感じたのか、「な、何だよ」と狼狽えながら言う。
相沢はにっこりと笑って「今日もお休みを頂きたいのですが」と告げた。
「お前、もしかして、また何処かに行こうってんじゃないだろうなあ?」と坂之上は警戒するが、相沢は「いえ、そんなに遠くには行きませんから」とだけ告げて、坂之上の返事を聞く前にグラウンドを飛び出していった。
その一時間後。
「ぬぅおぉうぁにぃぃ!まぁぁぁあた、あいつかぁ!うぉぉおーー!あいざわぁぁあーーー!」
グラウンドには森国の怒声がしばらく響き続けた。
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