7. 眠り姫にくちづけを
なんだろう?
口に何か、押し当てられている気がする。
それはとても柔らかく、気持ちいいモノで、鼻から息を吸い込めば、何かいいニオイもする。
清々しく上品な、お香のニオイ。
あれ、でも、このニオイ、どっかで……。
目を開けた瞬間、何が起こってるのか、すぐには理解出来なかった。
視界一杯に広がってるのは、人の、顔?
焦点を合わせると、オレの視線に気付いたのか、向こうの
透き通った、琥珀色の瞳。
文字通り、瞬く間にそれは離れ、同時に口も開放される。
遮るものがなくなって、見慣れぬ白い天井と周りを取り囲む水色のカーテンが目に映った。
鼻に付く消毒液臭からして、ここはどうやら保健室のベッドの上らしい。
「気付いたか?」
オレを見下ろし、自分の唇をペロリと
ただの隣の席の男子生徒だが……コイツ、オレに何をした?
人の上に覆い被さって、一体何を?
唇に、今も残るこの感覚は、まさかっ!?
口元を押さえ、ヤツを睨むと、にこやかに微笑まれる。
「どうした? もっと欲しいのか?」
枕の横に手を付き、またこちらへ身を乗り出してきたので、オレは慌てて起き上がり、全力で押し返した。
「やめろ、バカ、ヘンタイっ! 人の寝込みを襲うとか、天使みたいな
「ヒドい言い種だな。助けてやったのに」
これまでと違い、エラく横柄な口振りで彼はいう。
美しい顔立ちはそのままに、ふてぶてしいくらい自信に満ち溢れた表情で。
「あん? どうした? そんなに見つめて。俺に惚れたか?」
「まさかっ。んなワケねぇだろっ」
怒鳴り付けると、今度はわざとらしく肩を
「
「はっ?」
コイツ、今、なんつった?
化けた、とかいわなかったか?
もしかして、バレてる? なんでっ?
「なんだ、まだ気付かないのか? いつもあたしを助けてくれる王子様みたいなクラスメイト、一体何者かしら、すごく気になる、これってもしかして恋っ? とかなる方が、話の展開上面白そうだし、もう
やたら上から目線の物言いだが、こんな話し方するヤツに、一人だけ心当たりがある。
「もしかして、白菊?」
まさかと思いつつ、その名を口にすると、彼は得意げに頷いた。
「
「えっ、マジでっ? なんで白菊がここに? つーか、その姿はなんで?」
「俺は、神にも等しい存在だぜ。
つまり、オレのように、ルナールに化けてるってワケか。
まあ、オレに術を授けたくらいだから、自分が使えてもおかしかねぇけど。
それは一応わかったが、これだけは、はっきりいっときてぇ。
「王子、ムカつく以外気になんねぇし、恋なんてするワケねぇからっ」
ったく、人の性別、なんだと思ってやがる。
そうだ、これも一応確認しとかねぇと。
「さっき、何しやがったんだ、オレに?」
「気を分けてやったんだよ。人の姿を保つには、慣れないうちはいろいろと気ぃ使うから、その分、気の消耗も激しいんだ。あっ、最初にいった気は気持ち的な意味で、後のは生命の活力みたいな意味な。俺が分けたのも、こっちだ。口移しで、体内に送り込んでやった」
口移しってことは、それじゃあ、やっぱりっ……。
「ん? どうした? もっと欲しいのか?」
真顔で問われ、オレは、ブンブンと首を横に振った。
琥珀色の瞳がすぅっと、細められる。
「ああ。初めてだったから、気にしてんのか」
「また、人の心、勝手に読みやがったなっ」
デリカシーのねぇヤツめ。
「あんなの、犬に……狐に
爽やか美少年の顔に戻った彼が、手を振り去っていくのと入れ違いに、賑やかな足音が飛び込んできた。
「桜田さん、大丈夫っ?」
「着替え、持って来たよ」
なっちゃんたちが、カーテンを開け、顔を出す。
「ルナールくん、来てたみたいだけど、お邪魔だった?」
「いや」
否定すると、なっちゃんは、やや興奮した様子でいった。
「さっきのルナールくん、すごかったね。倒れた桜田さんにサッと駆け寄って、お姫様抱っこして運んでくれたんだよ」
「ねー。少女マンガの王子様みたいだった」
「へえ。そういや、アイツ、いつからこの学校にいるんだ?」
みんな、何の疑いもなく、受け入れてるけど。
「えっ。彼のこと、気になっちゃう?」
「そりゃまあ……」
頷くと、なっちゃんたちは、示し合わせたように同じ笑みを浮かべていった。
「ルナールくんって、美少年過ぎて近寄り難いけど、桜田さんとなら、美男美女でお似合いだよね」
「応援するよ、わたしたち」
勘違いも
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