第2話

 離れているからと言って、魔法や魔術を使う事は禁止されている。ただ私たち天干や地支、それに生徒会のメンバーと先生方、二大王はその例外に当てはまる。その代わり学園の生徒たちを守り、秩序に従わせるという使命が与えられる。

「そういえば、さっき天草さんと仲良くしてたわよね?」

 麗誠が迷わないように彼女の手を握っているが、少しだけその握る力が強くなったことで私は隣を向いた。するとこちらを向いてはいるが、目を合わせようとしない態度、まるで拗ねているような表情だった。

「急にどうしたの?いつもなら『よく飽きないわね、あれ。そんなことしてたらいい男も逃げちゃうわよ?』とか言うのに」

「私の真似としか思えないものは置いとくけど、最近・・・・・私に構ってくれない・・・から」

「っ!?やだ、かーわーいーいーっ!!」

 いきなり隣で切なそうな顔をされては、男にしか興味がない私でもキュンキュンしてしまう。思わず麗誠の身体を抱きしめてしまった。

「ちょ、ちょっと!抱きしめないで!」

「良いじゃない。構ってほしかったんでしょ?」

「言わなきゃ良かった!!それに遅れるから早く離して!」

 私と麗誠の身長差から麗誠の身体は地に着いてはいない。抵抗をしているものの、私が傷つかない程度のかわいらしい手足のジタバタだから一層萌えてしまう。

 でも遅れるのは本当の事だから惜しみながらも、地に麗誠の身体を返してあげる。

「まったく、そういう何も考えずに本能に従って行動するところは動物みたいですね」

「ごめんね、麗誠があまりにも可愛らしかったからつい。それに何か考えて行動してもそんなのつまらないじゃない」

「・・・ハァ、その議論についてはまたいつかするとして、走りますよ。もう時間がありませんから」

「あら、もうそんな時間?なら仕方がないわね、走りましょう」

 手をつなぎながら私たちは廊下を駆けることにした。私情で術を使えないから仕方がないことだわ。それにいつもの事だからもう慣れちゃった。

 速度的には麗誠が私の速度に合わせる形になってしまう。私の強みは身体能力ではないから麗誠も納得している。

「もう少し速度を上げれないのですか?」

 つもりだったけど、どうやら彼女はまだご立腹のようね。

「いつも言っているけど、私はそんなに体力がないの。そしてもう怒らないでよ。私と長年付き合っている仲じゃないの」

「親しい仲にも礼儀ありです」

「あ、親しいって思ってくれているんだ」

「っ!・・・ふん」

 私のその言葉に図星だから照れているのか分からないけど、麗誠は私の手を強く握りながら少しだけスピードを上げてきた。私は微笑ましい気持ちになって、また彼女をいじりたくなったけど、これ以上彼女のボルテージを上げるわけにもいかず、表情だけにとどめた。

 まぁ、スピードを上げたと言っても、私が主導権を握らないと、この子は見知った道であろうと迷うから余計に遅れてしまう。自分で走っていると思っていても、実は私が操作してるって聞いたら絶対に拗ねるわね。

 私たち一年生がいつも授業を受けている学舎を人をかき分けて出ていき、いくつかの校舎と校舎の間を抜け、一際目立つ建物が見えてきた。そこが私たち天干と地支が集まる干支総合摩天楼。

「あれって、愛を待ってるんじゃないの?」

 摩天楼の入り口を目視できる状態になって、麗誠がまたしてもいつもの事を言い出した。あのバカは自分が遅れようがどうでもいいと思ってるから、バカなのよ。

「あの子はいつもあそこで私を待っているものね」

 そして腕を組んで壁に寄りかかって目を瞑っていたが、私と麗誠が近づいてくるのが分かると、カッと目を見開いて猛ダッシュでこちらに向かってきた。

「傍から見れば、顔は整っていてイケメンなのに、あんな切羽詰まった顔でこちらに来られたら怖いよね」

「そうやって言ってはいけません。あれでも普通の顔をしていると思っているんだから」

 猛ダッシュしてきた彼は一度私たちの横をスルーしていった。だが遠ざかっていた走る音はすぐに止まりまた近づいてきた。

「おはようございまっすぅ!!姉さんっ!!」

「えぇ、おはよう。いつも元気ね、憂」

 私たちが走っているスピードに合わせて並走していつもの挨拶を元気よくしてくる同学年の男の子こと、虹色憂。憂は天干が呼ばれる日があればいつも私を待ってくれている。この子も立派な天干の一人だから、待ち合わせ・・・とも言えない待ち伏せをしてくる。迷惑ではないから構わないわ。

「貴方はいつも自分が騒がしいと思わないのですか?」

 隣で手をつなぎながら走っている麗誠は、その鋭い眼力で憂を横目でにらみながら口酸っぱく言った。

「あ?いつも姉さんに張り付いているテメエは邪魔で仕方がないだろう。迷惑を考えろ。それに地支のお前がなんで姉さんに着いて来ているんだよ。邪魔」

「天干として人格が備わっていない貴方に言われたくないです。それに地支の方でもほとんど同じことが言われるのでどっちに行っても一緒の事です」

「なら地支の方に行けよ!こっちに向かう必要なんてないだろう」

「私は愛のそばにいたいのでこちらに行きます。それに愛の許可はもらっています。貴方はどうですか?」

「あぁ!?もしかしたら姉さんの温厚かもしれないじゃないか!むしろ俺の方がふさわしいぞ」

 二人は私を間に挟んで口論を続けていたが、遂に私に白羽の矢がたった。

「愛はどっちの方が良いの?こんな不良を後ろに付きまとわしても不評が出るだけよ」

「当然俺の方ですよね?いらないやつを連れて回しても意味がないんですから」

 うーん、どっちも相手を邪魔だと思っているからこういう風な修羅場が起こっているわけね。私はどっちも迷惑でもないし、いてくれて嬉しいと思っているわ。

 だからここで私が取る選択は・・・

「早く行かないと遅れるわよ!」

 片方の空いていない方の手で、並走している憂の手を握る。そして最後のラストスパート張りに二人を引く形で前に躍り出る。

「えっ!?」

「おっ!?」

 二人の驚く声が背後で聞こえる。でもそれを無視して行かないとまた争いが起こってしまう。ここは私の体力との勝負。

「いくら遅刻するからといっても無理しなくてもいいのよ?」

「そこのアマの言う通りっすよ、自分が引っ張りますよ」

「いいえ、私が引っ張ります」

「は?俺だ」

「二人ともお黙り!!私がやるから舌をかまないようにしなさい!!」

 麗誠と憂が得意とするのは身体を張ったフィジカル型。対して私の得意とするものは技のクオリティーを上げたり、攻撃のヒット数を上げるテクニック型。だから今、身体能力で私が出来ることはこと。

 魔術の基礎中の基礎、細胞を活性化して身体能力を極端に上げる技を使う。そして巧妙に技を出すときの魔力の残留や身体から出る魔力も押さえる。すると少しの間なら何もしていないと騙すことができるわ。

「さすがね。こんな高等な陰を使う事ができるなんて」

「すごいっす!マジ感動っす!上級生でもこんなにきれいに出来る人なんていないっすもんね」

 私の速度に何も魔術を使わずに走っていられるあんたたちに驚きだわ。

 一分もしないうちに摩天楼の中の目的地の前に到着した。そして私は魔術を解除して解除の時に出る魔力残留因子も消して扉を開けた。

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