第2話

 あたしは今日のデートをあきらめて歩き出した。




「は、はじめまして、浜田穂乃香です」

「あ、どうも、竜崎蒼太です」


 これがあたしと竜崎さんとの初めての会話。でも、あたしは竜崎さんのこと、もっと昔から知ってた。友人の大学の先輩だった彼と、四年前に実はすでに出会っていた。竜崎さんはもちろんあたしのことなんか覚えてないみたいだ。


「え、と……浜田さんは……同じ大学だっけ?」

「いいえ、あたしは桃陽女子大です」

「え、あれ? 今日の飲み会……」

「あ、大学の部の飲み会なんですよね。あの、友人が誘ってくれて、お邪魔してます」

「あ、そうなんだ」


 ほんとにこれだけ。こんなんで恋が進展したなんて思ってないけど……数年前の彼との会話が一番印象的だったんだ。

 あたしは友人からセンスがわかんないと言われることがある。男の子に対してもちょっと偏見を持ってるみたいで、たいていの人が怖い。

 竜崎さんは見た目とても優しい印象だけど、少し辛口の話し方をする。

 だから本当は怖かった。数年前に部がお花見に行ったときに、実はあたしもついていってた。


 そこで、あたしは花見をしながら、つぶやいた。


「この桜の木全部に死体が埋まってそう」


 友人はどんびき。花見の席でそんなこと言うなって言われた。


「いや、桜って死体を呼ぶらしいぜ……ありえるかもな」


 その時、そんな風につぶやいてあたしの言葉に答えてくれたのが、竜崎さんだった。


 はっきり言って、竜崎さんにときめいたのはこれが最初。


 この後、二回くらい竜崎さんと話をしたけど、彼の相手の言葉を受け止める繊細な部分がすごく好きになった。

 悪く言うと、相手とも自分とも距離を置く突き放した感じの話し方。

 良く言うと、相手を絶対に傷つけない話し方。


 友人からはわけがわかんないって言われたけど、すごく好きになった。この人となら友達になれるかもしれないって思った。その思いを秘めたまま、四年間、あたしは片思いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る