第3話 初めての事件 前編
「ふぁぁ。あれぇ?もう朝ぁ?私‥‥確か、本を読んでて‥‥‥」
ロッティが昨日のことを必死に思い出そうとしていると、男の声が聞こえた
「そうだよ、君は本を読んでいたんだ。私の薦めたシャーロックホームズを、ね。難しい難しい言いながらも頑張って読んでいたよ」
「あ、ホームズ。そっかぁ私、本読みながら寝ちゃったんだ‥ってことは、この毛布を掛けてくれたのもホームズ?」
ロッティが自分に掛かっている毛布を指差しながらそう言った
「もちろん私だよ。というか、君と私以外この家には住んでいないんだから、私以外いないだろう?」
「ちょっとくどいわ。その言い方」
ロッティがホームズの言葉に文句をいうと、ホームズは
「しょうがないじゃあないか。癖になってしまったんだよ。こういう言い方が」と返事をした
「まぁいいけどね。それより、随分早起きなんだね、タンテーって」
「探偵の朝は早いのさ、いつ依頼人が来てもいいようにね」
「そういえば、朝ご飯を作ったんだ。味は保証出来ないが‥‥‥」
ホームズが朝ご飯を作ったことをロッティに告げるとロッティは驚きの表情をみせた
「え!ホームズって料理できるの!?
けっこう意外~」
「元の世界じゃあ一人暮らしだったのでね、料理ぐらいできるさ。
ただ、この世界の食材が元の世界のものとそっくりで少し驚いたがね」
「へぇ~。そうなんだぁ、なんかそのホームズのいた世界にも興味あるなぁ」
好奇心が旺盛なロッティは、目を輝かせながらそう言った
「ふむ。ならば今度話してあげよう。元の世界のことや私の鮮やかな経歴のことを」
「後半のやつは聞かなくてもいいけど、ホームズの世界のことは聞きたいなぁ」
自分の経歴を聞かなくてもいいといわれて、ホームズは少しムッとした
「むぅ‥‥‥‥‥」
「ま、今はとりあえずご飯食べよっか。ほら、ホームズも早く行こ!」
そう言ってロッティはホームズの腕を掴み、食事の置いてあるテーブルのまで引っ張っていった
「わかったから引っ張るんじゃあない」
「いいから!」
テーブルの上には、ベーコンエッグとパン、コーヒーと、英国風の料理が置いてあった
「わぁ、けっこう美味しそうじゃない!」
ロッティは初めてみる料理に、目を輝かせてそう言った
「そいつはどうも。私もまさかこの料理がこの世界でも作れるとは思っていなかったよ」
「それじゃ早く食べよ!お腹減ったし」
ロッティは既に椅子に座ってホームズを待っていた
「まったく、せっかちなお嬢さんだ」
そう言いながらホームズも椅子に腰を掛けた
「それではいただこうじゃあないか」
「いったっだっきまーす!」
ロッティが料理に口をつける
「おいひぃひゃない!(美味しいじゃない!)
ロッティが食べながらそう言うと、ホームズは少し顔をしかめた
「レディがものを口にいれたまましゃべるんじゃあない。はしたないぞ」
「ん、ゴクン。そうなの?」
「私の世界ではそうだ。こっちの世界でどうだかは知らないが、覚えていて損はないよ」
ロッティはやっぱりホームズは神経質だった、と思いながら返事をする
「そぉなんだ‥‥ふーん」
「でさー、今日はなにすんの~?」
「今日か、今日は近隣住民にあいさつ回りに行こうと思っているが‥‥‥」
「あいさつ回りという名の宣伝でしょ?」
ホームズはあっけにとられた表情で答える
「実をいうとそうなんだよ‥‥昨日の君の話でこの世界には探偵というものが存在しないことを知ってしまったからね」
「でもいいんじゃない?この世界にはタンテーがないんだから、お客には困らないじゃない」
「違うんだよ。私は面白い事件を求めているんだ」
ホームズがひねくれた考えをあらわにするとロッティが反論した
「ホームズって案外バカね。
普通の事件をこつこつ解決するから難しい事件の依頼が来るようになるんじゃない」
ホームズは自分を恥じた。こんな少女でもわかっていた探偵の本質を見失っていた自分を
「確かにそうだな‥‥‥私は探偵の本質を見失っていたらしい」
「わかったならよろしい!パパっとご飯たべてあいさつ回りにいきましょ!」
「ああ。そうしよう」
そうして二人はくだらない会話をしながら食事を続け、10分ほどして食事を終えた
「では行こうか、ロッティ君。
あいさつ回りという名の宣伝に、ね」
ホームズはドアに掛けてあったインバネンスコートを着ながら言うとロッティが元気よく答えた
「うん!どんな人が住んでるのかなぁ?」
ホームズがこの家を借りたとき、大屋が奇怪な化け物でひどく驚いたことを思い出し、頭を抱えながら言う
「この世界だから、人とも限らんがね‥‥‥」
すると、ロッティが自慢気に言う
「大丈夫だよ!もう大昔に魔物との戦争も終わって、エルフとかとも
和解したってお母さんが言ってたし」
「ふむ、だからあんな化け物が大屋をやっているのか‥‥」
「そうそうそゆこと!早く行こ!ホームズ!」
ロッティはもうすでにトビラを開けて外に出ていた
「やれやれ、元気があっていい‥‥のか?」
そう言ってホームズも開けっぱなしになっている入口を通り、外にでた
「この街はいいな。まるで昔のロンドンの様だ‥‥」
ホームズがそう例えた様に、この世界の街並みは、まるで中世のロンドンのようであり、石造りの家に、石畳の地面。まさに石造りの街と呼ぶのが相応しい、シャーロックホームズを愛しているホームズ(仮)にとっては理想の世界なのであった
「ロンドンって、シャーロックホームズの舞台でしょ?昨日読んだから覚えたわ!」
「そうだよ、そうだとも。私が敬愛するシャーロックホームズの住む街さ」
「まったく、どんだけ好きなの?
私は難しくてよくわかんなかったわ」
「大好きだとも。人生の指標にするぐらいにはね」
人生の指標…そのホームズの台詞に偽りはなかった。
前にホームズが説明した通り、彼はシャーロック・ホームズに憧れて探偵になったぐらいなのだから…
「ではいこう。まずはお隣さんのところにね」
「はーい!」
ロッティは元気のいい返事をしながら、少し離れた隣の家に向かって歩きだす。ホームズもその後ろについて歩きだした。
少し歩いて、二人が立ち止まったのはお隣りさんの家の扉の前。
家の造りはだいたい探偵事務所と似たり寄ったりで、特に変わった部分はない。
「ここか…。よし、ノックしてくれたまえ、ロッティ君」
「ええ…それぐらい自分でやればいいのに…」
ロッティはホームズの指示に文句を言いながらもコンコンッと二回ほどノックした後に、「すいませーん」
と住人に呼び掛けた。
だが、その呼び掛けも虚しく中にいるであろう住人からの返事は返ってこなかった。
「む?留守だろうか……」
そう言ってホームズはドアノブに手を掛け、回しながら手前に引くと、以外なことに鍵は閉められておらず
ギィィィという音と共に扉が開かれた。
「おや?これは……」
「うっ!くさーい!!」
開け放たれたドアの奥から漂ってきたのは、ホームズが何十、何百回と
嗅いできた『死臭』……、
読んで字の通り死の臭い。
恐らく、まともな人間ならばこの世でもっとも嗅ぎたくないと思われる臭いだ。
あまりの悪臭に部屋に入るのを戸惑っているロッティを尻目に、ホームズは悪臭が漂う部屋の中にヅカヅカと入っていく。
「あっ、ホームズ…!」
ロッティはホームズを制止しようとしたが、すでにホームズは部屋の奥にまで入ってしまっていた。
「むぅ……」
ホームズは、部屋の真ん中で立ち止まった。酷く険しい表情で……
その表情の理由は、体育座りの様にして壁にもたれている耳の長い、エルフ族と思われる女性の死体……
「なによ……これ……」
いつの間にかホームズの隣にきていたロッティが、唖然とした表情でか細い声を出す。
「なかなか……面白くなってきた……」
ホームズは、思いもしなかったまだ出会ったこともない隣人の死に驚きながらも、内心今の状況を楽しんでいる様な表情でロッティにも聞こえぬ様な小さい声でそう呟いた……
変人探偵と生意気少女 @Posted
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