025 旅に出る
出立は朝早く。
大使が動き始めているという情報があったので、隠れるように王都を出た。
かみさまは、この日がデビューとなる
むにゅ達が嫉妬するといけないので、あれは乗り物、と言い聞かせた。
乗り物と眷属が争うなんてみっともないなー! 変なのー! という前フリをしておいたので、むにゅ達は納得済み。かみさまは策士なのだ!
王都を出る時は幾つかに分かれた。
大勢で王都を出ていくと物々しいので、ちょっとずつね!
かみさまはダスティと一緒。もちろん、むにゅ達もだ。
クリスはシルフィエルと騎士の一人が変装して、親子のフリして出ていくことになったんだけど……。
「何故わたしが、こんな奴等の子供役なんだ!」
案の定、ワガママ言ってて、カビタンに軽~い「てんちゅ」された。
痛かったみたいで、その後はブスッとした顔で我慢してたので皆に感謝されたカビタンなのです。
エラスエルは商人の役、騎士一人がお付きで、残りの騎士はどうでもいいので聞いていない。
そんな感じで王都を出発したのに、特に何も事件は起こらなかった。
「あの、どうしてそんなに残念そうなんですか?」
「ダスティには分からないよ」
「はあ」
「刺客とか来たら面白かったのに」
「ええっ!?」
ダスティがドン引きしてたけど、かみさま的に敵をバッタバタと倒してみたかった。
むにゅ達もスタンバイしてたのにー。
残念!
「えっ、どうして妖精さん達まで落ち込んでるんですか」
「あれは芸なの。気にしないで」
四つん這いになってるのは、芸達者なだけです。
「ガルルル?」
「あ、アルちゃんは、土下寝しなくていいからね。ゼロが落ちちゃうし」
「ガルルル!」
「うんうん、良い子だね~」
ただ、先輩のあの芸は学ばなくて良いんだよ~。
アルちゃんがやろうとすると、かみさまが転げ落ちちゃうからね!
出だしは順調、問題もなく、出発進行。
遠回りをしながら、敵にバレないようクリスの国へ戻るという案で、旅は始まった。
かみさまが必死で「スイラン国」推ししてたのに、完全スルーされてしまったんだけどね。
ぶーたれてたら、シルフィエルがかみさまに質問してきた。
「ゼロちゃんはどうしてスイラン国へ行きたいの?」
「醤油とか味噌があるって聞いたんだもん」
「市場でも買ったじゃないですか。それも大量に」
「地元だともっと種類が多いと思ったの。ゼロの予想では、スイランは絶対に和風国家なんだよ。着物を変に着こなした外人とか、ファンタジーならでは。ぷふふ」
「ええと、すみません、よく分からなかったです」
うん、かみさまも通じてないのは分かってたよ!
「調味料の宝庫、って聞いたから行ってみたかったのー」
ジャンクなフードもあるかなって思ったし。
でも、ダイフクとチダルマが市場で買い揃えてくれたし、なんとかしてくれるかな。
チラッと見たら、任せて! と胸を叩いていた。
胸。
胸だと思う。たぶん。あのむにゅむにゅのどこに胸があるのか分からないけど、あるんだよ。きっとね!
そんなわけだから、スイランへは向かっていない。
ものすっごく遠回りになるけど、色んな国を跨いで面白そうだったのに、スイランへは行かない。
「しつこいぞ!」
あら。どうやら口に出していたみたい。クリスが
「エウディアーを抜ける方が、良いんだ。いつまでもウジウジ嫌味を言うな」
クリスの言葉を聞いて、カビタンがヒュイーンと飛んできた。
『あいつ てんちゅ する?』
「……一瞬それもアリ、って考えちゃったじゃないか。カビタンは、戻ってこなくていいから引き続き周囲の探索しておいで」
『あい』
天誅を免れたクリスは前を向いた。格好良さげにしてるけど、二人乗りです。後ろに騎士が乗っている。クリスの腕前が良くないのと、何よりも身分高い方を一人で乗せることに抵抗があったみたい。腐っても騎士なのだ。
臭いかもしれないけど。
今回はちゃんとパンツを変えてほしい。そう思うかみさまです。
途中ダスティから聞いたところによると、エウディアーは魔法国家と呼ばれていて、魔法使いが多いみたい。
エラスエルもそちらではもっと有名人なのだとか。
目立つから危険じゃないかと思ったけど、そこへ辿り着くまでにクリスを弟子として教育するんだそうだ。
かみさまも手伝っちゃうぞ!
ダスティには、嬉しそうですね、とドン引きされちゃったけど。
エウディアー行きは、クリスの希望だった。元々留学したかったそうなのだ。
魔法使いにひそかに憧れているところがあるようで、エラスエルから「弟子として扱う」と聞いて、喜んでいた。
ツンツンでデレないけど、鼻の穴がぷっくり膨らんだので、あれは隠れデレなのである。
あんまり観察しているとキレッキレになっちゃうから、かみさまは素知らぬフリをしてる。クリスの偵察は主にカガヤキがやってくれているので、お任せなのだ。
間接照明ごっこも、役に立つのである。
「この灯り、いいな」
とか言って、クリスに持って行かれちゃったし。
旅は、最初のうちは野営ばかりで、街には寄らなかった。
追われている可能性を考慮して。
そのため、野営になると、むにゅ達が大活躍である。必然的に
もっと褒めてくれていいんだよ?
でもクリスはツンなので、
「あのちっこいのが働いているだけで、お前は何もしてないじゃないか」
とか言っちゃうから、時々カビタンにてんちゅされていた。
もちろんかみさまは、「止めておあげ、あれは子供の反抗期だからね」と上から目線で間に入ってあげる。かみさまは優しいのだ。
そうやってクリスで遊びながら旅を続け、ようやく国境付近まで辿り着いた。
「ここからなら街へ入っても大丈夫でしょう」
大変でしたね、って顔でエラスエルが労うと、クリスは疲れた顔をパッと明るくさせた。
「ようやくか! 全く、旅の間は水浴びだけで大変だったからな」
「カビタンに頼めば、丸洗いしてもらえるのに~」
「絶っ対に、嫌だ! 大体、あいつ毎回わたしの頭を叩いてくるんだぞ!」
「うふふー」
「やめんか、その笑い! 本当に腹の立つ顔して、あ、やめろ! 青いのが飛んできたぞ、止めろ!」
「うふふー」
「おい、お前、くそっ。ゼロ、あいつを止めろ!」
というぐらいに遊んでいた、かみさまなのだった。
ちなみに、カビタンの丸洗いは「カプセル入浴方法」と命名して、騎士達には大変人気でした。
カビタンにダイフクが合体すると、浄化もするという優れものです。
かみさまは優雅にお風呂へ入りたい派なので、ヒヨプー作のお風呂にちゃんと入ってるけどね!
シルフィエルかエラスエルのどちらかと毎回一緒で、楽しいお風呂タイムなのだ。
男連中は早く入りたいらしいので、カビタン入浴法一択でした。
クリスは一人ではお風呂に入れないとか、こんな奇妙な風呂は嫌だとワガママを言ったので放置。
おかげで、川を見付けてはコソコソ水浴びしてた。
意地を張りすぎるとああなるという見本通りの、クリスなのだった。
かみさまとむにゅむにゅ 小鳥屋エム @m_kotoriya
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