021 犯人はお前だ!




 お屋敷に戻ると、かみさまはむにゅ達へお仕事を与えた。


「ダイフクとチダルマは厨房でお手伝いをするように。おやつ作りはお任せします」

『『あーい!』』

「クロポンは煙突のお掃除です。終わったらちゃんと水浴びしてね」

『あい!』

「カビタンはお掃除のお手伝い。お水は浄化されたものを出してあげてね」

『あい!』

「オジサンは蔓で籠を編んでね。おやつを入れて運べる形にして」

『おい!』

「カガヤキは、カガヤキは……」

『あい! あい! あい!』

「あ、うん、ええとね。そうだね。カガヤキは鉱石マジックでもやろうか」

『あい!』


 良かった。なんとか全員にお仕事を出せた。

 しかし、ヒヨプーの単体の時の返事にも驚いたが、オジサンは何故「おい」なんだろうか。あい、の変形かもしれない。オジサンという名前だからではないことを願いたい。だって、安直過ぎるもの……。



 ところで、この様子を見ていたシルフィエルはきゃっきゃと楽しそうだったが、クリスはドン引きだった。

 何アレ、といった様子だ。

 失敬である。

 姿を現したむにゅ達はとっても可愛いのに。


 まさか、かみさまにドン引きではあるまいな。


 ちょっと心配になったかみさまである。





 さて、そうしてむにゅ達の行動をコントロールしつつ、クリスのお部屋を用意している間にヒヨプーが戻ってきた。

 客間ではクリスがようやく力を抜いたところで、おやつに手を出しているところだったのに、ヒヨプーがほわーんと飛んできてクリスの目の前で止まったから驚いて固まってしまった。

 絶対、驚かせるつもりでやっているに違いない。


「ヒヨプー、それダメ」


 一応、注意する。あくまでも、一応。


「で、どうだったの?」

『さりげなく おいた にんげん きづいて よんだ あわてて はしる おもしろい』

「あ、そう。クリスちゃん、無事お手紙届いたみたいだよ」

「そっ、それのどこが、無事なんだっ!!」


 え、読まれたんだから無事届いたことになるよね?

 かみさまは首を傾げつつ、指定した待ち合わせ場所のことを確認した。


「フルィエット公園の噴水前で会うんだよね? ゼロとむにゅ達に任せてね!」

「えっ、いや、それはその――」

「ダメですよ、ゼロちゃん。危ないじゃないですか」

「そうです、ゼロ様。いけません」

「ゼロは大丈夫! 人間の召喚士だから!」

「「「…………」」」


 なんだかシーンとしてしまった。

 何故かしらね。

 かみさまは肩を竦めて、皆を見回した。1人だけ睨んでいる人がいる。クリスだ。


「でも、エラスエルが匿うんだから、本人や関係者は省いた方がいいよね?」

「そ、そうですね」

「だったらゼロ達が行くのが良いと思うの」

「ですが――」


「お前みたいな子供に何ができる! 迷惑をかけるのはやめろ!」


 クリスに怒られてしまった。

 なんだかどうやら、もしかしてだけど、かみさま嫌われている?

 変な気は送られていないし好意的なアレの反対っぽいものが吸われるような感覚もないけれど、かみさま大丈夫か、ちょっと心配。


 ドキドキしつつ、かみさまは「はんにんはわかった」的ノリでクリスを指差した。


「迷惑をかけているのは、君なのだ!」


 どや。

 決まった?

 見回すと、ヒヨプーがうんうんと頷いてくれた。

 つまり、ヒヨプー以外は頷いていないというわけだ。


 しまった。

 かみさまの一番のファンである眷属すべてを揃えておくべきだった。


 しかも、シーンとしたではないか。

 かみさまはこういうのは得意でない。スベるとか、そんな言葉も好きではない。


「えーと? とりあえず、ゼロが適任なのは、あーゆーおっけー?」

「ゼロ様、お言葉の意味が少々……」

「あー、えー、ゼロが行くのが一番良いと思うのね」

「……確かに、我等の姿が知られてしまっては、後々困ったことになりますね」

「でっしょう!?」


 ほーれ、みろ。

 得意満面でクリスを見ると、悔しそうに「ぐっ」と呻いていた。うふふ。


 ……はっ。かみさまとしたことが。ついムキになってしまったではないか。


「ごほん! とにかく! むにゅ達が姿を消して警戒、ゼロは庶民役です。お小遣いをもらって指示された風に装うの。相手の出方によってお手紙を選んで渡すわけ。どう?」

「成る程、それならば」

「良いですね! そうしましょうよ。むにゅちゃん達の暴走が怖いけど、ゼロ様なら止められるだろうし」

「いや、むしろゼロ様をお止めする方が大変なのでは……」


 最後誰かの一言が余計だったけれど、結局かみさまのゴリ押し、もとい親切心が受け入れられた。






 当日、フルィエット公園の噴水前で待っていると、見た目は騎士っぽい男達が執事っぽい男と共にやってきた。

 かみさまは、ふふーんと鼻歌が出て来る感じでスキップしながら近付いた。


「な、なんだ、こいつ」

「気配がなかったぞ?」

「ていうか、おっそろしく整った顔してないか?」

「ガキだろ? ガキが整った顔……」


 かみさまはアイドルだけど、こういうのはあんまり好きくないなあ。

 でも、アイドルは誰に対しても平等に愛を与えねばならぬのです。


「こんにちは! これ、預かってきたの! 貴族の人が来たら渡してねって!」


 幼児っぽく、かつ、愛らしい笑顔で差し出した。

 付近で隠れているむにゅ達から応援の声が届く。かみさま可愛い! かみさま最高! と。


 しかし。


「この手跡は確かに――」

「おい、それより、このガキ」

「ああ、見目が良い。どこかの落胤かもしれんぞ」

「あの殿下のようにか。はははっ」

「どうする、コイツ、捕まえちまうか」


 何やら悪巧みをしていている。

 もしかして、かみさま、ピンチ?

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