020 狸の耳は可愛いか、可愛いのだ




 狸妖族ラクーンの子は、小さいお人形さん達にもお菓子をあげたいと言うので、かみさまは彼女のオススメを頼むことにした。

 母親は、変な顔をしていたけれど、シルフィエルがこっそり「妖精がいるんですよ」と教えて納得していたようだ。

 小さい子の中には精霊や妖精が視える者もいる。自分の子も視えるのかと、嬉しいようだった。


 出てきたのはおせんべいで、喜んだのはむにゅ達よりかみさまだった。


「わーい、おせんべいだ!」

『『『『『『『わーい!』』』』』』』


 狸妖族ラクーンの子はかみさま達が喜んだのが嬉しかったらしく、パリパリしてとっても美味しいんだよ! と教えてくれた。

 そしてひとつ摘んでダイフク達に食べさせてくれる。


「いいなあ」

「じゃあ、こっちを食べさせてあげるね」

「うん」

「あーん」

「あーん」

『『『『『『『あーん』』』』』』』

「いやぁぁぁぁぁん!! 可愛いっ!!」


 騒いでいたら、隣りのテーブルで話をしていたエラスエルに怒られてしまった。

 シルフィエルが。

 あと、転がり人間がこっちを睨んでくる。

 ほらー、シルフィエルが悪いんだよ、とつっついたら、彼女はかみさまも睨まれてますよと小声で言う。


 えっ、かみさま睨まれてるの?


 ギロッ。


 睨まれていた!!

 由々しき事態である。

 もしや、あーんされていたので、羨ましかったのだろうか。

 それとも逆に、かみさまにあーんしたいとか?


 チラッと見たら、まだこっちを見ている!!


『『『『『『『あいつ てんちゅ する?』』』』』』』

「ダメ。ていうか、睨まれてるだけなのに」


 止めなさいね? と注意して、かみさまはおせんべいの残りを食べた。

 狸妖族ラクーンの子に食べさせようとしたら、母親に止められてしまった。妖族の間ではお互いに食べさせ合う行為は伴侶の儀式らしく、やってはいけないそうだ。

 狸妖族ラクーンの子も小さくてまだ分からず、親のしていることを真似ただけのようだった。


 残念。

 餌付けって楽しいのに。

 仕方ないのでシルフィエルにやろうとして、ニマニマしたままこちらを見ているのでなんだか胸がぞわぞわしたから、止めた。


「えっ、なんで止めるんですか!」

「だってー」

「ゼロ様ひどい。わたしにしてくれてもいいじゃないですか!」

「むにゅ達にやるからいいの」

「むにゅちゃん達には、わたしもやります!」


 その後、狸妖族ラクーンの子とシルフィエルと3人でむにゅ達の餌付けを奪い合いながら遊んだのだった。




 ところで、転がり人間は名前をクリスと名乗った。

 かみさまはこれでもほぼ神であるゆえ、神力を隠していてもさすがに性別ぐらいは分かる。

 そう、クリスは女の子なのだ。

 それなのに坊ちゃまと間違えられるということは、男装をしているということで。


「男装女子!」

「……なっ!? なんで、分かったんだっ!!」


 思わず叫んでしまって、かみさまが知っているということを知られてしまった。


「おっ、お前、この間、わたしが寝ている間に、服をっ」

「そんな破廉恥なこと、ゼロ様はしませーん! 失礼なこと言わないでほしいわ!」

「シルフィエルや」

「はーい」


 とにかく、男装するには理由があって、家名を名乗らないけれどもどうやらお家騒動に巻き込まれており現在は知人を頼って逃げてきている最中だとか。

 それで男装しているのかと思ったら、元から男装しているようだ。


「誰にもバレなかったのに」


 と、悔しそうに言っていたので。


 それで、どうも知人から情報が漏れているフシもあるので、匿われているところから逃げようとしていたらしい。

 エラスエルは国に助けを求めてはと、一応聞いてみたのだが、それは絶対無理なのだときっぱり断られてしまった。


「もしかして他国の王子様だったりして」

「なっ、なんで分かるんだ!!」

「あれ? そうなの?」


 物語的にアリだと思ったけれど、そんな安直な、と思ってしまったのは内緒だ。


「くっ……何故だ……」

「いや、だって、偉そうな物言いとか、国に助けを求められないとか、割とヒントいっぱいあるよ?」

「ぐっ」

「この子、なんだか面白くて憎めないわね。それはそうとゼロ様賢いですね、やっぱり!」

「シルフィエル、おぬしはもう黙っておれ」

「はーい」


 そんなわけで、この中で常識的で冷静な大賢者様が話をまとめることになった。

 念のため、クリスが匿われているところへ手紙を送って、身を隠していますと知らせること。

 どこか第三者的な場所で話をしてみること。

 それで安全じゃなければエラスエルが匿ってあげること、が決まった。

 その代わりクリスも身の上話を洗いざらい教えるようにと、条件をつけた。


 エラスエルが仕切ると話が早い。

 素直になってクリスが一々ツンツンしなくなったのもあると思うが。


 そして、まずはお手紙を送ってみようぜ、となったのだが。


「ヒヨプーに持って行かせるね。絶対見つからないし」

「それでしたら安心です」

『まかせて』


 他のむにゅ達が抗議活動を始めようとしたので、かみさまは慌てて注意した。


「お屋敷に帰ってからやること。あと、寄り道したり変なことしたらダメだから、ヒヨプーなんだよ」

『『『『『『えーっ』』』』』』

「ヒヨプーが一番マシなんだもん」


 一番マシという言い方もどうかと思うが、何かやらかす心配はヒヨプーが一番少ないのだ。


 マイペースで遊ぶダイフクや、アグレッシブすぎるクロポン、一見落ち着いているチダルマは火を吹くし、カビタンはクールっぽい見た目に反して攻撃的だ。天誅ごっこの先頭に立つのがカビタンである。

 オジサンは軍人ごっこが好きなので危険な匂いがプンプンするし、カガヤキは天然だから何をしでかすか本当に分からない。

 オラオラ系の職人気質っぽいヒヨプーが一番マシなのだ。

 それはそれでどうかと思うけど。



 とにかく、宥めすかして納得させ、クリスに手紙を書かせてからヒヨプーに託した。

 場所はクリスが地図を書いたけれど、思い浮かべたらしいのでその時に頭へへばりついて読み取ったようだ。

 突然現れたヒヨプーを見てクリスは大変驚いていたが、妖精だよと狸妖族ラクーンの子が言うので信じたらしかった。


 ヒヨプーは手紙を飲み込んで(文字通り飲み込んだ)ひゅわーんと飛んでいった。


「あ、姿消して! 見えてる見えてる!」

『ほい』


 ヒヨプーはひとりのときは「あい」と返事をしないのか。

 かみさまは変なことに気付いて、衝撃を受けていた。


 他の子達は全く気にせず、手を振ってお見送りだ。


『『『『『『おしごと がんばってー』』』』』』


 かみさまは屋敷に戻ったら、ひとりずつに「おしごと」を与えようと思った。

 それが彼等をおとなしくさせておく秘訣なのだと、思い至ったからである。







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魔法使いの方の誤字脱字修正にかかりきりで、こっちほったらかし状態です。もしよろしければ気長にお待ち下さい。21話までは書いてるんだけど読み直ししてないのです。



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