016 コンプリートシステムと大人買い
王都には沢山の神殿があるそうだが、運営上、ボロっちいのも多いらしい。
でも信仰心に違いはないのですと、エラスエルはまるで許しを乞うかのようにかみさまへ訴えた。
このへんでひとつ彼の中の勘違いを正しておきたいのだが、一体ナニと間違えいるのかまずそれが不明だ。
「えーと、ゼロは人間の召喚士でー」
それはもういい、とどこからか突っ込みが入ったような気もしたが、かみさまは気にしない。
「女神様とは関係ないよ? うーんと、尊敬はしているけど、別枠というか」
「……別枠でございますか」
「うん。だから、眷属の精霊だとかでもないの」
「さようで、ございましたか」
「がっかりしちゃった? ごめんね」
「いえ! とんでもございません!!」
エラスエルを気遣うと、それに気付いた彼は慌てて首を横に振った。
鈍感でお間抜けなシルフィエルとは全然違うのだ。彼女はかみさまとエラスエルの会話を「へ?」という顔で聞いていた。全く分かっていなさそうだった。
「ここだけの話ね。ゼロは女神様と知り合いなんだよ。すごい?」
「は、はい!!」
「あれ、信じてくれるの? 人間の子供の召喚士の言うことなのに」
「ふふふ……ええ、もちろんですとも」
笑われてしまった。かみさまジョークが伝わったにしては、老爺が孫を見る顔だ。ううむ。
まあでも、彼は賢いので、大事なことは黙っていてくれるだろう。
シルフィエルとは違うのだ。
「あのー、結局ゼロちゃんは精霊の子供じゃないんですか?」
「空気を読まぬか、シルフィエルよ」
「えー。でもじゃあ、むにゅちゃん達は妖精じゃないのですかー?」
呼んだ? と、むにゅ達が集まってきた。
ボロっちい神殿の穴を探しに、走り回っていたのだ。途中ヒヨプーが穴を塞いだりしていたので、それは偉いと褒めておく。
「妖精の変異種だと思ってましたー。もしかして魔物?」
『てんちゅ する?』
「あ、待ってごめんごめん。嘘よ。魔物でも可愛いからいいの」
「なんという間違いを。おぬしは本当に視えておらぬのか。でもバカな子ほど可愛いというもので、なあ。ゼロ様、申し訳ございませぬ。どうかこの者をお許し下さい」
「うん。大丈夫だよ。あと、カビタン、その冗談笑えないから止めなさいね」
『あい!』
本気ではなかったようで、シュイーンと飛んでいってしまった。
結局かみさまは、ふんわりと、自分は精霊と人間の間みたいなものだと説明して納得してもらった。
「……そういうことに、しておきましょうか」
「ハーフって素敵ですね! ゼロちゃんが綺麗なのも精霊様の血を引いてるからかあ」
姿を消したむにゅ達まで視えるようになったくせに、どこか鈍感なままのシルフィエルだった。
エラスエルはやはり、かみさまが神様に準ずるものだというのは気付いたようだ。
でも、人間だと言い張っているので、そのように接すると言ってくれた。
ちなみにむにゅ達は「ハーフであるゼロちゃんを守る」ために遣わされた妖精、ということで落ち着いた。
まあ、シルフィエルはおバカなので、そのうち設定を忘れるだろう。
かみさまも、人前では「人間の召喚士」を名乗るので、良いのだ。
屋敷に戻るとすぐ夕飯となったが、そこでもボロ神殿についての話をした。
お金のある人はピカピカの神殿に行くため寄進も多く、運営も楽なのだろう。神官達はかなりの贅沢をしているようだ。
王城へ出入りできるのも力のある神殿のみだと、苦い顔で皆が教えてくれた。
ボロい神殿にも人が集まれば良いのだけど、というから、かみさまも考えた。
「うーんと、御朱印集めとかやってみてはどうかな」
「ゴシュインとはなんでございましょう?」
あれ、知らないのかな。でも、脳裏に朱印という言葉はあるので、神殿に印はあるはずだ。
「こういう、印鑑のようなもの。神殿を表す証明、絵や印のことだよ」
「ああ! ございますね。はい。ですがあれは、証書などを発行する際の印でございますが、一体どのように使われるのですか?」
というので、説明した。
参拝してくれた方々へ、寄進してもらったら印を示すのだ。
ものすごくざっくりした説明に、皆がぽかーんとしている。
「それが、一体――」
「どれだけ参ったか、どの神殿に参ったか、というのが分かるようにノートに押してもらうの。そうしたら沢山の朱印が収集されて、競争心を煽ることができるんだよ」
「あ、あくどいですね」
「シルフィエルや」
師匠に睨まれて、口の軽いシルフィエルは慌てて黙った。
「そんなやり方でも信仰心は増えると思うよ。だってせっかくお参りするんだもの。気持ちは篭もるよね?」
「ふむう」
「あと、10個溜まったら奥殿への参拝が許されるとか、独自のシステムを作ると良いよね。朱印に、神官さんがサインしたり、絵を描いてあげると独自性が強まって人気も出そう。何度も来てもらえるきっかけになるんじゃないかな」
「……それは、確かに。神殿に務める神官の中には手先の器用なものもおりますしね。寄進があれば神殿の運営も楽になるでしょう」
コンプリートするとそれだけで気分が上がるのに、更にオマケまで付いてくるなんて絶対嬉しいと思う。
……かみさまは、何か集めたいのかしら。
むにゅ達が7号まで揃っているので、違うとは言い切れないかみさまだった。
エラスエルのお屋敷では、かみさま達はかなり自由だった。
アルの調教師も雇ってくれて、かみさまが乗れるようになるまでビシビシ教育してくれている。
むにゅ達はそれぞれ気に入った場所で、お手伝いをしたり、勝手なことをしていた。
苦情が来たら対応するつもりだったのだけど、案外慣れてしまってお屋敷の人と仲良くやっているようだった。
魔法使いの人達は出仕することもあれば自宅待機で研究している者もいて、こちらも自由なようだ。
エラスエルは3日に1度の割合で王城へ出向けば良く、長い出張から戻ってきたということで現在は長期休暇の最中だ。
シルフィエルはペーペーなので割と毎日お仕事に行っていたが、帰ってきたら元気に挨拶に来るので平気そうだ。
ダスティもやって来てはかみさまとちょこっとお話をして帰っていった。余分な出張費はもらえなかったようだ。
かみさまは大抵はエラスエルと、たまに屋敷の人と出歩いたりしている。
お使いに行くのが楽しいので毎日何かしらやっていた。
その日もかみさまは厨房の下っ端下女と手を繋いでお買い物だ。
お付きとしてチダルマとオジサンが付いてきている。というか市場へ行くので行きたがるのだ。
お屋敷には毎日専門の業者が来てくれるのだけど、稀に急な物入りもある。
本日もお客さんが急遽やってくることになったので果物を買いに来たのだった。
「ゼロちゃん、何か欲しいものはありますか?」
「うーんと、あれは何」
「トマトを干したものですね」
果物売り場にトマトを干したモノがあるなんて!
トマトは野菜なのに!
と、かみさまとオジサンは顔を見合わせる。まあ、別にどう区別しようと関係ないんだけど。
「じゃあ、あれをいただきましょうか。他にも干したものをそれぞれ入れてください」
「へい! あ、じゃあ、イモの干したのはどうですかい」
「あら、それは庶民的な食べ物すぎやしないかしら」
「いやあ、
粉をふいてまとわりついている。
とっても美味しそうだ。
かみさまは庶民的な食べ物も大好きなので――というか庶民的なものの方が好きかもしれない――下女のエプロンを引っ張った。
「あら、食べたいんですか? でしたら、それを」
「へい!」
「ゼロちゃん、いっぱい食べる? これ、干してるなら少し置いても悪くならないかしら?」
「これなら10日ぐらいってとこでしょう。足が早いんでさ。普通の干し芋なら、冷暗所なんかで40日はいけますぜ」
「ゼロちゃんはどれぐらい欲しい?」
「いっぱい! あるだけ! お金もあるよ」
蜜芋の干し芋なんて、絶対美味しいに決まってる。
姿を消したチダルマもツンツンつついて満足そうに頷いているので、チダルマセンサーを通過したことも分かっていたし。
かみさまは一度はやってみたかった「全部買わせていただくわ」をやってみた。
下女が若干呆れたような視線を向けてきたけれど、気にしないのだ。
彼女は店の主に、じゃあ蜜芋の分をあるだけ全部と、普通の干し芋をお屋敷の人のおやつ用にと頼んだ。
荷物は果物屋の下男が運んでくれるので、かみさま達は手ぶらでお買い物の続きができた。
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