012 内蔵されている耳よりも口が大事なの




 かみさま達は王都へ向かうことになった。

 この国はオルフィリアといい、人の流れが集まることから王都には多種族が多く住んでいるそうだ。

 獣が人型になった妖族と呼ばれる種族も王都には大勢いるというので、かみさまはワクワクしていた。


「猫耳ー」

「猫耳ですか? はて、確かに猫には耳がついておりますが」


 トンチンカンなことを言うエラスエルはほっといて、シルフィエルと一緒になって獣耳の楽しさについて語り合った。彼女とは気が合うようだ。


 しかし、獣耳の話をしていたら嫉妬したのか、むにゅ達が手を頭の上にちょろっと出して、これが耳だと言うようになった。


「いや、それは手。耳じゃない」


 耳! これは耳なの!

 と言い張る。


 仕方ないので、そうだねーと適当に返事をしたら、全号が集まってきて相談し始めた。

 嫌な予感しかない。

 かみさまは慌ててむにゅ達を呼んだ。


「全号集合~」


 集まったむにゅ達をひとりずつ見ながら、かみさまは厳かに告げた。


「君達の姿はそれが一番可愛いと思って作り出したの。だから、そのままで問題ナシ。分かった?」


 えー。

 ほんとー?


 ほんのり拗ねた調子で伝えてくるので、今度は懇々と諭す。


「ダイフクに耳があったら、おかしいでしょ? クロポンに耳があったらおかしいよ。キャラ的にはこれでいいの」


 これ以上おかしな形になったら困るという気持ちも多少ある。


 そもそも全員に耳を付けてしまったら、オジサンとかヒヨプーあたりがおかしなことになるではないか。

 あと、耳よりももっと大事なものが必要ではないだろうか。


 ほら、むにゅ達には目しかないし。

 かろうじて生き物、キャラとして成り立っていられるが。


 というわけで提案してみた。


「口なら、付けても良いよ?」


 口?

 くち。

 唇!!


 むにゅ達は万歳三唱で喜んだ。


 エラスエルは唖然としたまま、シルフィエルは「うへっ?」と女性にあるまじき裏返った声を出していたが、この話を聞いていたのは2人だけだったのでこれで済んだ。

 後ろから付いてきている護衛の騎士達が聞いていれば、たぶんもっと大騒ぎになっただろう。




 さて。

 そういうわけなので、早速ひとりずつ呼んで、口を描いてあげることにした。


 一応、本眷属の意見も聞いてみるつもりだが、ダイフクを始めほとんどが「お任せで!」と伝えてきた。


 ダイフクはぽよよんとした餅型なので限りなく丸い楕円型の口を小さく描いてみた。描くといっても、指でちょいちょいと示しただけで出来上がる。


 カガヤキに結界を張ってもらったので神気は漏れ出ていないはずだが、エラスエルはずっと震えていた。かみさまを前に乗せてくれているので一番近い場所だから、一番神気を感じ取りやすいのかもしれない。


 クロポンは上三角の形、チダルマはまん丸にしてみた。


 唯一、カビタンだけは格好良くしてと言ってきたので、横一線の口だ。口として作っているので開くはずだが、普段は「無口な俺格好良い」をやるのだろう。


 オジサンは剽軽っぽくしようと思って下三角の口に。

 ヒヨプーは元が元なのでアヒル口にしてあげた。軽く、みょんと摘んでちょいちょいこねくり回しただけだが、かろうじて分かるアヒル口だ。


 カガヤキが最後になって、結界をクロポンと交代した。

 ワクワクしているのが伝わってくるのだが、かみさまはしばし考えた。


 ピンポン玉ほどの大きさの円である。そこにつぶらな瞳があって、口を書いてしまうと、どこかで見たような形になってしまって、見るたびにかみさまは遠い過去を思い出しそうな気がする。

 よって、却下。


「か、カガヤキは、そのままが一番可愛いかなーと思うんだけど、どう?」



 ……。



 あ、これ、凹んでるヤツだ。

 かみさまは慌ててカガヤキをナデナデして、機嫌を取った。


「じゃ、じゃあ、四角い長いのは?」


 取り出し口みたいな形の。


 かみさまの提案に、カガヤキはうんと頷いた。つぶらな瞳があるおかげで頷いたことは分かったが、基本ピンポン玉なので動いていることが分かりづらい。

 ちなみにこの世界にピンポン玉はない。

 あくまでもかみさまの知識である。


「はい。これで、できたよ。って、あれ」


 カガヤキは、かみさまが「そのままが可愛い」と言ったことを根に持った、もとい、覚えてしまったからか、口を表示したり隠したりした。まるで明滅して存在を表すカガヤキそのものだ。


 まあ、むにゅ達は手も足も自在に出したり引っ込めたりするので、口もアリなのかもしれない。

 好きにして、とかみさまは後のことは投げた。






 かみさまの近くにいて硬直していた2人のうち、我に返ったのは弟子のシルフィエルだった。後からエラスエルが息を吹き返していた。はあーーーーっと大きな息を吐いて。


 そして、シルフィエルは興奮してゼロ様すごい、むにゅちゃん達可愛い! と叫んでいる。

 エラスエルは正気に戻ると、これから一緒に食事ができますねと苦笑した。


 むにゅ達は体内にモノを取り込むことができるので、厳密に言えば食べていたかもしれないのだが、空間能力があるので分かりづらい。

 今回からは確実に食べられるようになるだろう。


 あと、これが一番重要なのだが、喋れるはずである。


 かみさまはワクワクして、むにゅ達の初めてのお喋りを待った。



 むにゅ達は新しい姿を自慢したいらしくて後方の騎士達のところへ飛んでいったりしていたが、やがて急いで戻ってきた。


 戻ってきて開口一番、告げたのは。


『もちに ぎたい するの!』

『きし とりしまる?』

『あしは いらない から しっぽにして いい?』

『てんちゅ!』

『どくきのこ さいしゅしたい~』

『あいつらの しり たたいてくるぞ?』

『……とぶの すき』


 各々、好きなように発言してくれる。

 ひとり、天誅とかおかしいことを言っているが、どうやらブームになっているようなのでほっておく。

 ていうか、なんでそんな舌足らずで可愛い喋りなの。


 かみさまのキャラを奪う気かしら。


 ちょっと不安になった、かみさまだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る