011 お砂糖と調味料とお餅搗き




 小金持ちになったかみさまを騎士達が羨ましげに見ていたので、屋台で美味しそうな串焼きを奢ってあげた。喜んで食べていた。

 騎士というのはお給料が良いはずなのに、お金がないのかしらと心配になった。

 ダスティがみっともないと嘆き、シルフィエルは怒っている。

 エラスエルは、買い食いは初めてだと言っておっとりと食べていた。



 その日はゆっくり休み、翌日、買い物に出かけた。

 騎士達は交代で護衛することになり、3人が遊びに出ていった。

 かみさまの買い物に付き合ってくれるのはエラスエルとシルフィエル、賭けに負けた2人の騎士だ。

 お酒臭くて、どんな賭けをしたのか、ダスティは白い目で2人を見ていた。

 そのダスティは宿で書類整理らしい。


 食品を扱う商家では店主がすでに待ち構えており、賢者ソフォス様がやってきた! と大歓迎ぶりだった。

 調査隊の関係者が来てももてなされるそうだが、賢者ソフォス様は別なのだそうだ。

 かみさまよりよっぽど神様っぽい。


 見た目も賢者ちっくなエラスエルと手をつなぎ、かみさまはお店に入った。

 むにゅ達は姿を消しているが、すでにエラスエルとシルフィエルには存在が知られているため、彼等には視えている。

 よって、たまにシルフィエルがぶほっと吹き出したり、とろんとした表情で頬を抑えて身悶えているので、危険な感じだった。

 美女がやってはいけない、そんな方向で。


 外野はさておき、早速お買い物である。


「お砂糖などの調味料がご入用だとか。各種揃えてございますのでどうぞ、こちらへ。お味見もなされますか?」

「する!」


 かみさまが手を上げたら、店主は微笑んで何度も頷いた。


「なんとお可愛らしいこと。賢者ソフォス様のお弟子様でしょうか」


 本当に思っているわけでなくリップサービスのようだが、エラスエルは自分などとんでもないことだと恐縮するので、店主の目がキランと光ってかみさまに釘付けとなってしまった。


 砂糖は精製された白いものから、茶色いものまで揃っていた。今回の調査隊のために、普段は仕入れない高級なものを用意していたようだ。

 他にも、ハーブ類、この辺りではとれない胡椒の粉、ソースなどだ。

 醤油や味噌というものがあるか聞いてみたら、あるにはあるがふたつ隣りの国が原産地で、こんな辺境の町には存在していないとのことだった。


 がっくり来ていたら、エラスエルがぽんと肩を叩く。


「王都でしたら流通しておりますよ? 王都には各国の料理屋もございますから、調味料の数も多いです。食材も集まっておりますのできっと美味しいものが沢山揃っているかと思うのですが」

「……王都、行こうかな」


 かみさまの返事に、エラスエルはぱあっと笑顔になった。

 行きましょう行きましょうと、ニコニコしてかみさまの手を握る。

 そこから、気持ちの良いオーラが流れてきて、やっぱりこのお爺ちゃんはかみさまが大好きなんだなと感じた。



 他のお店では、豆粉を買った。

 パサッとして美味しいものではないそうだが、栄養価は高いので田舎の食料必需品らしい。小麦粉だけでなく色々な食材を栽培するが、豆はその代表格だそうだ。

 育てやすい品種も多く、この町も例に漏れず売るほど大量にあるという。


 豆粉の他に、その過程で作ったきな粉もあって、かみさまはちょっぴり楽しくなった。

 目の前ではダイフクがふーらふらと飛んでいる。

 ダイフクは食べられないが、食べられるものを出してくれる良い眷属なのだ。




 いろいろお買い物が終わると、宿へ戻った。

 かみさまは早速、宿の裏庭へ行ってお料理タイムに突入した。護衛は宿へ帰った途端にどこかへ消えてしまった。やる気のない護衛である。

 裏庭へは結局エラスエルとシルフィエルの2人が来て、一緒に見ていた。


「ダイフク、餅米出してー」


 はーい!

 賢くお返事して、ダイフクが餅米を取り出した。

 ヒヨプーが鍋を作って、そこにカビタンが水を入れ、ダイフクが蓋になって上にヒヨプーが乗っかる。

 ぎゅいぎゅいと、猫鍋みたいに詰め込まれておかしい。


「あ、あの、あれは何をさているのでしょうか」


 エラスエルが困惑気味に聞いてきたので、かみさまは教えてあげた。


「お米に吸水させてるの。本当は一晩つけ置きするんだよ」

「さようでございますか」

「カビタンがそういう水を出してくれたから、あれでいけるの」

「成る程」


 ぎゅうっと入って1分も経つと、ヒヨプーが出てきた。ダイフクは水を吸ったのかちょっぴりたぷんたぷんしている。


 水を切って少し置いてから、ヒヨプー制作の蒸し器にセットするのはチダルマ。もちろん、下の鍋は沸騰させている。

 綺麗な布巾も上段には敷かれていて、そこに餅米が敷かれた。

 あとは、蒸し上がるまで待つだけだ。


 待っている間に、ヒヨプーはオジサンが伐採してきていた木の中から良さげなのを取り出して、杵と臼を作り上げていた。

 かみさまも不思議なのだが、あのみょんと飛び出てくる丸い手で、どうやったら切ったり削ったりできるのか。

 我が眷属ながら、できる子達だ。


 で、ただ待っているのも暇だということで、晩ご飯も作っちゃおうぜとクロポンが提案し、いつの間に狩っていたのか道中でもよく見かけたキジを取り出して解体した。


「旅の間に見慣れていたとはいえ、いやはや素晴らしい眷属達ですね」

「ほんと! ゼロ様が羨ましいわ~」

「おぬしは料理ができぬから、欲しいのだろうが。まったく」

「だって、師匠、こんな可愛くて料理もできるなんて!」


 師弟ふたりは楽しげに言い合っていた。


 調味料はチダルマに預けているので、かみさまが時々こういうのが良いんじゃないってアドバイスしつつ、チダルマが調理をした。


 晩ご飯は、キジを挽肉にして団子にし、野菜と共に煮込んだスープだ。

 そこに焼いた餅を入れる予定である。


 そして、餅だが。


 遊び疲れた騎士達が戻ってきて裏庭へ来た頃には、餅搗き大会も最高潮に達していた。


 チダルマが餅を返す係、クロポンとヒヨプーが搗く係で、周りは応援だ。


「きゃーっ、すごい!」

「おお! 早くなってきましたな!!」

「頑張って、クロポン、ヒヨプー」


 ペッタンペッタンという音が、スタタタタタタタタという素早い音に変わり――。

 高速餅搗きの終わりが見えた。


 チダルマがスッと手を上げ、終了の合図を送る。そして流れてもいないのに汗を拭く仕草で、ふうとやり遂げた感を出すと一斉に拍手喝采が起きた。




 ワケがわからないのは騎士達だったが、何故かつられて拍手をしていた。




 かみさま達は楽しかったし、エラスエルもシルフィエルも一緒になって応援していたので楽しかったようだ。



 柔らかい搗きたてのお餅は、まずは安倍川餅にした。

 精製した白いお砂糖ときな粉、そしてお餅の相性は抜群である。


「あ、でも、お爺ちゃんは気をつけてね。柔らかいから喉に引っかかって、窒息する可能性あるからね。小さく噛み切って、よく噛んで食べてね」

「な、なんと、そうなのですか」

「ていうか、お爺ちゃん呼びとか。なんて羨ましい……」

「おぬしの嫉妬する場所がよく分からんのだが、いやしかし、なんとも柔らかくて美味しいことか」

「ほんと!びっくりするぐらい伸びるし、柔らかくて美味しい!!」


 騎士達がゴクッと喉を鳴らしているので、かみさまはチダルマ達に給仕をお願いした。

 途端に、やったあ! と子供のように喜んで受け取る騎士達。

 後から、騒ぎと匂いで気付いたダスティと残りの騎士達もやってきたので、その場で晩ご飯となった。


 庭に勝手に即席のテーブルや椅子を用意して、キジ団子スープも外で食べた。

 餅は火で炙って焦げ目を付け、各自の皿に入れていく。


「あちちっ」

「うめっ」

「うわ、めっちゃ伸びる!」

「喉っ! 喉詰まった!!」

「香ばしくて美味しいなあ」


 安倍川餅も美味しく食べて、晩ご飯も完食だった。

 途中、ダイフクが冗談のつもりでダスティの皿に入り込んでいたのだが、彼は知らずにフォークを刺して食べようとしていた。


「あれ、あれ? ……うわあっ!!!!」


 驚くのは分かるが、だからといって皿ごと投げ飛ばすことはないと思う。


 とりあえずかみさまは、食べ物で遊んじゃいけませんとダイフクを叱っておいた。ついでに他のむにゅ達にも、きな粉の海で泳いでみたいという意見には却下であることを示した。

 どこからそんな発想が出てきたのか。

 生みの親であるかみさまは自分は悪くないと断言して、むにゅ達を説教したのだった。

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