008 召喚士と妖精なのだ
辺境地域の調査をしていた理由は、国が貴族家に領地を与えるための下準備だったらしい。
国土管理の調査ついでに彼等は国から派遣されて来たそうだ。
「それももう終わりですので、ご一緒に王都へ参りましょう」
「うーん。行きたいところに行く」
離れた場所から騎士の「精霊らしいな」という独り言が聞こえる。だから違うのに!
かみさまの言いたいことをむにゅ達が受け取って、「精霊」にこだわる騎士の周りを取り囲んで首を横に振っていた。
ちょっとおかしくて、可愛い。
かみさまがそちらを見て笑うと、老爺も視線を向けた。
「もしや、あなた様の眷属となる小さき妖精様がいらっしゃいますか?」
そう言われると、むにゅ達を妖精だと言い張って連れ歩いても良いのかなと思い始めた。
いやしかし。
むにゅ達の姿だと、魔物だと思われるかもしれない。
かみさまでさえ妖かしかと疑われたのだ。見たことのない姿を持つむにゅ達なら、魔物扱いされそうだ。
ちなみに妖かしとは本来は魔物のことを指すのだが、人間が妖族を差別するときにも使う蔑視言葉らしい。妖族とは獣の姿を持つ人族っぽい知的生命体のことで、人間とはあまり仲良くしていないようだが同じような生活様式をしており、かみさまからすれば同じくくりにある。
それに反して魔物とは、知的レベルの低い情け容赦のない化物のことだ。むにゅ達をあれと一緒にされてはたまらない。
かみさまは一瞬考えた。
なんであの形にしちゃったのかなバカバカかみさま! と。
でも、ここで試しても良いのかもしれない。
人間の目から見て、実際のとこ、どうなのか。
「ええと、妖精、かな?」
「おお! そうなのですか!」
思いの外、老爺には喜ばれてしまった。
かみさまはむにゅ達を呼んで、姿を現すように指示した。
すると、老爺のみならず、人間みんなが大口開けて立ち尽くした。
「……変わった形、の、ようせい?」
「妖精?」
ざわざわする空気が騎士達から感じられるけど、白ローブの女性はぱあっと笑顔になって距離を詰めてきた。
「可愛い! ゼロ様も可愛いですが、妖精達も可愛いですね!」
「可愛いか?」
「変な形だぞ……」
「いや、でも、悪い気配は感じない。お前たちもっと
「はあ」
「それに本物の精霊と妖精だったら、怒られるじゃないか」
こそこそ話しているが、かみさまには聞こえているのだぞ?
あと、むにゅ達がチラチラ気にしているのでそれ以上は止めた方がいい。天誅下しちゃう? って相談し始めてる。
「素晴らしい! こんなに清らかな気配のある妖精を、わたしめは存じませぬ」
老爺が空気を読んで褒めてくれた。むにゅ達は万歳三唱だ。
気が逸れて幸いである。
かみさまは、食べはしない生物を殺生するのは好まないのだ。
というか、むにゅ達はかみさまが好きすぎてちょっとおかしい。
もう少し穏やかであれ、と願う。
むにゅ1号のダイフクが敬礼をしてきたので、伝わったようだ。
残りは無視している。
かみさまの眷属としてそれはアリなんだろうか。
少し考えてしまうかみさまだった。
とにかく、かみさまの眷属であるむにゅ達は無事、妖精ということで押し通すことができた。
となると、かみさまは妖精使いである。
精霊を使役する魔法使いがいるように、妖精を召喚して使役する者もいる。
確か、召喚士というのだった。
「ゼロは人間の召喚士。あの子達は妖精。で、良い?」
「……え、ええ、そうですね。そういうことに致しましょうか」
騎士達はもはや突っ込まないらしい。何か言いかけて、白ローブの女性に睨まれていた。
老爺もかみさまの自己申告の設定に苦笑しながら、納得してくれた。
というわけで急遽「調査は終了」ということになったらしく、一行の根拠地へと戻ることになった。
人間達には乗り物があって、大きな蜥蜴が離れた場所に繋がれていた。
かみさまも知識として知っていても実際に見るのは初めてだ。
この世界では温和で臆病な馬を馴らすよりも、度胸がある戦闘に向いた種を好むらしく人気の乗り物なのだ。
かみさまは老爺の前に乗せてもらった。
白ローブの女性がかなり残念がっていた。あと、むにゅ達も。
特にカビタンが次のかみさまを乗せる順番だったので、しきりに飛び回ってアピールしていた。
「ごめんね。その代わりお仕事してもらうから」
お仕事!
全号がぴゅーっと集まってきた。
みょんと手を出して敬礼する。
「それぞれ、
はーい、とくるくる回って各自が獲物、もとい乗っかる相手を決めていく。
突撃された騎士達はあわあわしていたが、これで収まりが付く。
ちょうど良いことにかみさまを入れて8人分、乗れるのだ。
しかし騎士はともかく、文官の男は飛んできたオジサンに驚き、
かみさまは気にせず、老爺の前から全隊進めーと号令をかけたのだった。
彼等の野営場所に辿り着くと、待機番だったらしい騎士達が駆け付けてきた。
「
「
「それ、なんですか」
老爺は困ったような顔で笑うと、ゴホンと咳払いして彼等に説明してくれた。
「こちらは、あー、人間の召喚士様であらせられる。失礼のないように」
「「「……は?」」」
「人間の、召喚士様です。シルフィエル達の傍にあるのも、妖精ですので、決して侮ったりしないよう」
「……は、はあ」
いいですね!?
と、念押ししつつ、眼光鋭く睨み渡して、ポカンとする男達に言い聞かせていた。
格好良いお爺さんである。
威厳のある姿にかみさまもちょっと真似をしたくなったが、小さい子供の姿では威厳も何もあったものではない。諦めた。
ところで、かみさま達は老爺と白ローブには歓待されたが、他の人々には遠巻きにされてしまった。
どうやら、誰も住まないような僻地に子供がひとりポツンといるのは、魔物と間違えられてもしようがないほどの衝撃だったようだ。
よく考えたら成る程そうだ。
村もないのに、どうやって生きていたのかという話である。
かみさまは気持ちが大らかすぎて、そうした瑣末なことにこだわらなさすぎたみたい。
もう少し、自分設定を突き詰めなくてはいけないと反省した。
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