河童時代(912文字)
「最近、世の中に明らかに河童が溶け込んでいるだろう?」
「なにを言い出すんだ、藪から棒に」
「藪から棒なことがあるか、君も薄々、感づいているくせに」
「薄々……だれの頭が薄いだと!?」
「そんなこと言っていない。河童のことだ」
「たしかに河童は頭がハゲだ。つまり私は河童ではない」
「どうだか、カツラかもしれない。そもそも聞いてもいないのに、自分は河童ではないと言いだすのが、怪しい。さては君は河童だな」
「河童だったら、どれだけいいことか」
「なんだと、どういう意味だ」
「なんと言っても、泳ぎが上手い。河童の川流れというくらいだ。泳ぎが上手いの代表が河童だな。オリンピックに出てるのはたいてい河童だろう」
――ばりぼりばりぼりばりぼりばりぼり。
「急に、なんの音かと思ったら、いきなり、きゅうりを食べ始めやがった。やっぱり河童じゃないか!」
「河童じゃないと言っているじゃないか、ばりぼり」
「河童の大好物と言えば、きゅうりだろう。それをそんなに喰いまくるということは、河童だと自白したようなものだ。よく見たらくちびるも黄色いし! くちばしだろ、それ!」
「ええい、話の通じないやつめ、こうなったら相撲で決着をつけよう」
――どすーん、どすーん。(四股を踏む音)
「やっぱり河童じゃないか! 河童は相撲が強いって話だぞ。それで決着をつけようというのは卑怯だ。とか言っている間に組み付かれた!」
「おりゃー」
「ぐわっ、投げられた」
「さて、約束通り、尻子玉を抜かせてもらおうか」
「そんな約束してないぞ! やっぱり河童じゃないか!」
「そうは言っても逃れられまい」
「うわっ、やめろ、そこは、あ、やめて」
「ぐへへっ」
「尻子玉を抜かれた俺は、なんと河童になってしまった。頭はもともとカツラだったし、泳ぎは得意だったし、きゅうりは好きだったし、素質はあったんだなあ」
「肌が緑色だとすぐばれるから、日焼けサロンに行くのがいい。甲羅は粗大ごみだぜ」
「なるほどなあ」
「ところで、相撲と尻子玉の方はどうだい」
「そいつは、まだ試してないな」
「こそこそ俺たちの話を聞いてるやつがいるぜ。そいつで試してみろよ」
「それがいい」
――どすーん、どすーん。(四股を踏む音)
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