グール(699文字)
昔々、山奥のある村で、生まれてほしくない子供が生まれると、おかしなことですが、母親が責任を取らなければならないという風習があったそうです。
母親が取らされる責任とは、生まれたばかりの子供を自分で殺さなければならないというものでした。そして、その殺し方というのが、あまりにも残酷で、つまり、食い殺すのです。
母親は子供に噛み付いて、柔らかな喉を引きちぎらなければなりませんでした。産後で弱っているし、女の力ですから、即死というわけにはいきません。せめて我が子が、少しでも苦しまないようにと、母親は必死になって肉を噛み、断ち切ろうとするのでした。
そうして噛み殺した子供を、家族みんなで犬のように食ったそうです。こうすれば、生まれてほしくない子供が、生まれてはこないと信じられていたのです。
あの土地にそういういわくがあるのだと聞いたのは、ずっとあとになってのことでした。
あの日、工事現場で人骨が出たという騒ぎがあり、それは結局、動物の骨ということで、その日のうちに作業が再開されても、はじめに見つけた人の見間違いだと、わたしは信じていたのです。
だから、あの砕かれた骨を捨てるときに聞こえた、悲しげな叫び声も、動物のものだと思い込んだのです。
知らずにしたこととはいえ、取り返しがつかないことをしました。わたしはそういう理由で子供を生みたいとはどうしても思えないのです。その勇気がないのです。
わたしは、最近になって、また、あの叫び声を聞きました。ですが、それが昔、噛み殺された子供たちのものなのか、それとも、わたしが孕んだ子供のものなのか、わからないのです。
もう生きていても仕方ありません。
さようなら。ごめんね。
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