きぃちゃん(270文字)

母さんが若かった頃だから、ずっと昔の話ね。

母さんは、本屋さんに立ち寄った。

そこに、きぃちゃんが現れたのよ。

きぃちゃんというのはね。

黄色い雨靴を履いているから、きぃちゃんなの。

その日は、色あせた花柄の傘も差していた。

雨も降っていないのに。

本屋さんの中に入っても、傘は差したまま。

でも、だれもなにも言わないの。

きぃちゃんは雨傘さして、本屋さんの中を歩き回ったわ。

だれもそれをとがめないのが、当たり前だった。

きぃちゃんは、母さんに本を見せたの。

そして、言ったわ、あかちゃん、かわいいねって。

母さんは、そうだね、あかちゃん、かわいいねって答えたの。

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