3.ピンキー・ホラー・ショー

クロクロ(620文字)

 中学校、人影まばらな教室。


「今朝、変なものを見たんだ」

「変なものって?」


 わたしは机に突っ伏して、彼らの話を盗み聞いていた。


「なんか、もやっとした、黒いもの」

「それって、もしかしてクロクロか?」

「クロクロ?」

「なんだ、知らないのか」

「クロクロってなんだよ」

「お前が見たやつって、首がない黒いのが踊ってなかったか」

「……そんなようなのだった」

「間違いない。それはクロクロだよ」

「だから、クロクロってなんだよ」

「クロクロはクロクロとしか言いようがない。まあ、妖怪かなんかだよ」

「それで、なにかいわくがあるんじゃないのか? クロクロを見たら不幸になるとか」

「……そうだな」

「教えろよ、友達だろ? 俺は見ちまったんだぜ」

「下校する時、気をつけたほうがいい」

「なにを?」

「また、クロクロが現れるかもしれない」

「ああ」

「その時、いつもと同じ道を通って帰らないとダメだ」

「それから?」

「それだけ。それでもう二度とクロクロは出てこない」

「わかった、そうする。ありがとな」


 つぎの日の朝。

 女の子たちのひそひそ話。


「Aくん、死んだんだって」

「え!」

「しー、静かに」

「どうして、Aくんが」

「詳しいことはわからないけど、側溝で見つかったんだって」

「そうなんだ……」


 お葬式にはわたしも行った。

 黒い制服を来て、参列した。

 そこで呆然としているBくんを見た。

 聞こうと思ったけど、やめた。

 どうして、クロクロについて嘘を教えたのか。

 本当はいつもと違う道を通って帰らないといけないのに。

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