終末のアート倶楽部
アーティストたちに楽園を与えたのは人工知能とロボットだった。人生を覆い尽くしていた煩雑な仕事はすべて解消され、アーティストはアート活動に専念できるようになった。
もう一つの側面から見れば、人はアーティストにならざるをえなくなった。なぜなら、煩雑な仕事はすべてなくなってしまったからだ。すべての人間は生まれながらのアーティストとも言えた。そうでなければ植物と同じだ。もちろん、人間より植物のほうがマシだとするアート倶楽部も存在した。終末世界ではなにごともアートなのだ。
人間の逃れられない性なのであろう。あらゆるアートは特殊な判定基準によって点数をつけられることになった。それらはランキング形式で毎週公開される。人々はそれを見て一喜一憂した。終末世界ではそれくらいしかすることがなかったのだ。ランキング上位者は王様みたいに偉ぶって、ランキング下位者はくやしい思いをさせられた。
ランキング上位者の中にはクソを石膏で固めたのをアートだと言うもの、裸で歩き回るのをアートだと言うものもいた。基準は絶対で、批評は意味をなさなかった。批評もアートにされ、批評相手よりもランキングで勝たなければならないのだ。しかし批評はなかなか高得点が得られなかった。
ある時、人工知能にアートをやらせてみてはどうだろうと言ったものがいた。無責任な男だった。アートランキング一位であったが、自分が死ぬ直前になって、そう言い出したのだ。この主張はアートランキング下位者からは何度も繰り返され、無視されてきたことだった。しかしアートランキング一位のものが主張したとなると、無視することはできなかった。制度を否定することになるからだ。
かくして、人工知能によるアートが発表された。週末のランキング公開まで、アーティストたちはみんなひやひやした。人工知能のアートがランキング上位に入ってしまえば、アートさえ人間の仕事ではなくなってしまうのだ。あとにはなにも残らない。アートランキング下位者もそれにやっと気づき、どうか人工知能のアートが自分よりも下の順位になってくれと祈った。
人間たちの祈りが通じたのだろう。人工知能がつくったアートは素晴らしいもののように見えたが、厳正な判定の結果、アートランキング最下位に没した。
その結果を見て、人間たちはお祭りをし、それもアートランキングに載った。それから、アートこそが人間と人工知能をわけるものだという主張もされた。これもアートランキング上位に上がった。人間は生まれながらのアーティストで、人工知能はアーティストになりえないとの主張がアートとして認められたのだ。
この世界を楽園と呼ぶものもいる。僕は終末と呼んでいる。なぜなのか、それを話したいと思う。しかしここで聞いたことは秘密にしてもらいたい。この世界を壊してしまうかもしれないから。
僕が所属しているアート倶楽部は美容整形の倶楽部だ。おもに人間の顔を美しくするのが僕のアートだ。僕はいろいろなアーティストが顔を変えたのを知っている。そして、それぞれがいくら払って、どれだけ美しくなったかを知っている。
興味本位でそれをグラフにしたことがあった。するとアートランキングとの相関関係が見えてきた。その時、稲妻に打たれたような衝撃が走った。すべて合点がいったんだ。美容整形にお金を使ったものほど、アートランキング上位に入っていた。これがどういうことかわかるかい?
つまり、顔の良し悪しもアートランキングの判定基準に組み込まれているんじゃないか。そう考えることができるんだ。信じるも信じないも勝手だけど、僕はこれをもとに実験的アートをいろいろ試した。けっこう頑張ったけど、僕だけでは限度がある。それで裏のアート倶楽部である、終末のアート倶楽部を発足したんだ。
この結論に至るまでに十年もかかった。もうはっきりしている。アートランキングを権威づけしている特殊な判定基準というやつは、人間がそれをアートランキング上位にあってほしいと願うかどうかが核だったんだ。
ということは、アートランキングの正体は、人間が暗に投じた願いの結果ということになる。おそらく投票率百%のね。アートランキングは勝手に僕たちの脳を覗いてたってわけ。
これを聞いて、君はどう思っただろうか。答えたくないなら、答えなくてもいい。僕はこんなに厳正な判定基準はないと思ったよ。そして同時に、こんなにくだらない判定基準はないとも思ったね。真実よりも幻想を優先させるんだから。でもまあそれが、アートなんだろう。
今じゃ、終末のアート倶楽部がアートランキング上位を独占している。そう、君のよく知っている、あの人も、あの人も、あの人も、あの人も、あの人も、あの人も、あの人も、あの人も、あの人も、あの人も、顔をつくり変えて、人工知能に頼って、こうあってほしいという人間の願いのままに。
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