Ⅲ・一次試験_1


Ⅲ・一次試験



 いっかくじゅう区、別名天都。冬の宮の中枢であるこの区は、天の川の真上にある。というのも、天の川は冬の宮では地下を流れており、その上に盛り土をして、いびつな三角形の人工都市が建てられているのだ。

 天都はまさに、雲の上の城。ただでさえ高台にあるのに、さらに真っ白な高いへいに取り囲まれ、街の様子は外からは全くうかがい知ることができない。門はわずかに三つのみ。その先の長いエレベータで高台の上までのぼって初めて、塀の中に入ることができるのだ。

 だんなら身分証明なしでは入門すらできないが、今日だけは別だ。学院の入試のため、受験生たちがめかける。ロキにそうしてもらった受験票を手に、アステラも受験生のふりをして天都に入った。

(『まあ適当にがんれよ、俺はねこ捜しでもしてる』かあ……)

 ロキの最後の言葉を思い出しながら、アステラはななめがけ鞄の紐をにぎりしめる。ここ五年、地下鉱山の外に出たことすらなかったのに、今や星の子に交じって天都にいるなんて。受験生たちに従って学院に向かいながら、アステラはそっと視線を走らせた。

 青いひとみ、赤い瞳……鉱山ではめったにお目にかかれない、いろあざやかな瞳のあらし。入学試験は十五歳から受けられるとはいえ、通過するのは年に十数人ほどだという。きんちようしたおもちの受験生の中には、多浪のしんがしのばれる年かさの星の子もちらほら見受けられた。何度もちようせんしてようやく学院に入れたとしても、無事卒業できるとは限らないわけで……、星導士資格を持つ星の子は、本当に限られた天才だということだ。

(それにしてもれいな街)

 土とやみいろの風景に慣れ切ったアステラには、広い青空が照りえる明るい街の風景はしんせんですがすがしく映った。建物は過度なそうしよくなくすっきりとまとまっており、どのかべえ冴えと真っ白にられている。雨が降ったのか、いしだたみは少しだけれていた。

 目に映る何もかもにきようしんしんのアステラ。色々と見て回りたいのはやまやまだが、

(しっかりしなきゃ。観光じゃないのよ)

 あやしまれないように、とりあえず受験生として一次試験の会場に入れと、ロキは言った。

(まず試験を受けなきゃいけないのは不安だけど……まあ、受かる必要はないんだし)

 試験は三日にわたって行われるが、警備と不正防止のため、その間は門のエレベータが停止し、外部とのれんらくたれるのだそうだ。初日で落ちてもどうせ三日間は天都にこうそくされるのだから、今下手なことをして怪しまれるよりも、大人しく一次試験を受けて、その後にゆっくり動こうという算段だ。

 逆に三日目になれば受験生は全員強制的に天都を追い出される。門で受験票を照合されるから、隠れて残るのは不可能だ。なんとかそれまでにぼつしゆうされた星輝石を取りもどさなければ。

 そうこうしているうちに、アステラは天都のさいおう部に辿たどりついた。

 学院。

 しのび返しのついた高い塀、かがやく金のもん。そこをえると、白い石畳の両側に、研究科ごとに分かれたとうが立ち並ぶ。似たような建物が多く、慣れないと迷ってしまいそうだ。中央星府にけんされて役人として働く星導士は別として、学院で研究を続ける星導士たちは、学生たちと共に構内のりようで暮らしているのだという。

 試験会場は本部棟の大講堂だ。アステラは持たされた受験票を受付係の女性にわたした。

「アステラ・バーリ?」

「は、はい。こいぬ区から来ました」

 アステラはまえがみでなるべく目元を隠し、答えた。みようを知らないアステラのために、ロキが考えためいだ。

「親星は?」

「え?」

「親星の名は?」

「あ、えっと、その……」

(そっか、星の子だから当然親星がある……どうしよう、考えてなかった!)

 アステラはなんとか不自然でない星を考えようとするが、

「分からないならいいわ」

 案外あっさり流されてひようけする。きょとんとするアステラに、女性は半笑いで、

「あなたの目を見れば、固有名のあるような明るい星の子じゃないってことくらい分かるわ」

「はあ」

「どうやら初めての受験みたいね」

 受付の女性はアステラの暗い色の瞳をちらりと見やり、あわみの表情をかべた。どうやらアステラ・バーリの合格の可能性は低そうだ。

「目立って明るい星なら星輝石だけで判断できる場合もあるけど、あなたみたいな暗い星の子は、たいてい親星の名を知らないものよ。星の子の親星を判定できるのは、学院のてんしようだけ」

「天象儀……、あ、最終試験の!」

 アステラはかばんからしゆうようこうを取り出し、ぱらぱらめくる。一次試験、二次試験の通過者のみが受ける、最終試験。そこには、天象儀の問答、というなぞの文字列がさいされていた。

「そう。そこで親星が分かるはずよ。入学後、学院ではその星の名で呼ばれることになる」

「へえ……」

 受付の女性は受験票を返し、ろうの奥を指さした。

「行って。試験会場は大講堂よ」




 入学試験・一次。

 大講堂には、数百人の受験生が集まっていた。白い石造りの講堂。木製の机が半円形にきようだんを囲み、後方に行くほど高くなっている。てんじようにはきらびやかな星図がえがかれており、複雑な装飾がほどこされた星輝石ランプがいくつもり下げられていた。

「受験番号順に着席してください!」

 試験官がさけぶ。受験生たちは机の上に張り付けられた番号札をたよりに、自分の席に着いた。アステラはついきょろきょろと周りをうかがってしまう。しかし怪しまれる心配はなかった。試験開始を待つ受験生たちはみな落ち着きなくそわそわしていたからだ。

(星の子ってみんな自信満々で、おそれるものなんかないって感じなのかと思ってた。瞳の色がちがうだけで、星の子も私たちとたいして変わらないのね)

 と、とつぜん、講堂にざわめきが起こった。

(何?)

 アステラは教壇の方を見下ろす。前の入り口から、十人くらいの若いせいどうがぞろぞろと入って来るのが見えた。いやおうなく衆目を集める、のうこんに銀のふちどりの制服。せまき門である入試を通過し、無事卒業して星導士の資格を得たけつぶつたち。しかし、彼らはその中でも……、

「一等星の面々だわ。お美しい……」

(一等星?)

 アステラはすぐとなりの受験生たちの会話に耳をました。

 夜空に星は多くあれ、一等星と呼ばれる、特に明るく見える星は、全天でわずか二十一しかない。その星の子ともなれば、実力は折り紙付きだろう。そのしように、

「一等星の守護を受けるだなんて……、なんて高貴な方々なの」

 アステラの周りでも、すうはいのため息が量産されている。

あこがれよね。一等星の子はまさに、次期てんてい候補だもの」

 前にロキが言っていた。天帝は、名こそ王のようだが、立場としてはあくまで星導士協会長。しゆう制ではない。しかしその座をげるのは一等星を親星に持つ星導士だけとされている。そして現在の天帝ベテルギウスは、体調の悪化から退位がうわさされているそうだ。

(あの人たちの中から、次の天帝が)

 つまり目の前の彼らは学院の次代を率いていくはたがしらというわけだ。アステラは目を細めてよく観察した。受験生たちが熱いまなしを送る、その一団の先頭にいたのは、

「あっ!」

 よく目立つぎんぱつに、するどく青い瞳。き通るような白いはだ、美しく整った顔立ち。一目で分かる、地下鉱山で出会ったぼうの星導士だ。夜のくじらの居場所をしつようあばこうとしていた、彼。

「シリウスさまよ。相変わらずお美しい……」

「直視するな、明日あしたから鏡を見るのがつらくなるぞ」

「どうして俺はシリウスさまが卒業する前に入学できなかったんだ?」

「二回もろうにんしたからだろ」

 受験生たちの話題は銀髪の青年のことでもちきりだ。

(……ん?)

 アステラはそこで何かに気づく。

「シリウスって……、え、シリウス!?」

 冬の大三角のいちよくになう、おおいぬ座の一等星シリウス。何をかくそう、このシリウスこそ、一等星の中でも第一位の明るさをほこる、夜空で一番明るいこうせいだ。

(つまり、全天最強の星導士……!?)

 おどろいてつい声を出してしまったアステラに、隣の受験生がおもしろがって声をかけた。

「やだ、あなたいったいどんな田舎いなかから出てきたわけ? シリウスさまもご存じないの?」

「いや、はは……」

 ご存じどころか、殺されかけた。アステラは無理やり笑うしかない。

「シリウスさまはベテルギウスていの二番目のご子息よ。お兄さまもゆうしゆうでらっしゃったけど、シリウスさまは別格。二十歳はたちで学院を卒業して、今年から正規の星導士っていう、次期天帝の筆頭候補なんだから」

「そ、そうなんですか」

 現天帝の次男で次期天帝筆頭候補……!? いまさら正体を知ってとりはだが立つアステラをよそに、くだんのシリウスは他の星導士を残し、一人だけ出て行ってしまった。

「ああ、行ってしまわれるのね。シリウスさまも試験かんとくをしてくださるかと思ったのに!」

「おいそがしいのよ。それに、あの方の前だと思うと集中できないから、この方がいいわ」

「それもそうね」

 シリウスがいなくなると、講堂は残念がる声でいっそうざわついた。

せいしゆくに! これから一次試験を始めます!」

 試験官が声を張り上げる。改めてぴりりとする受験生たちに、木の標本箱が配られた。

「一次試験はせいせきの同定です」

 標本箱の天板はガラスになっており、中はうすい板で細かく仕切られている。そしてその一つ一つに、色も形も様々な星輝石が入っていた。

「標本箱に十種類の星輝石が入っていますね。これから配る試験用紙に、星の名の書かれた表があります。標本箱の中の星輝石と、その親星の名をいつさせなさい。星輝石は取り出して見てもよろしい。早い順に勝ちけで、下位百名は失格です。もちろん、早くても解答がちがっていれば失格。表をめた者から挙手すること」

 アステラは標本箱をのぞき込んだ。

れい

 夜空の星を見上げると、それぞれ色が違うことに気づく。燃える温度が違うからだ。高温であるほど青っぽく、温度が低ければ赤っぽく見える。

 星輝石は親星の色を正確に写し取る。とはいえ色だけで見分けるのは困難だ。よほどとくちよう的な色でない限り、けつしようの形やこうじようこんによってふるい分けしていくしかない。一次試験は星輝石の知識と共に、処理能力を測る試験なのだ。

 硬度を調べるためのガラスやこう、条痕判別用のきのとう、そして解答用紙が配布され、試験官が手を挙げた。

「では、はじめ!」

 アステラは考えるより先に、乳白色の丸い星輝石を手に取った。

(スピカだ)

 思わず心でつぶやく。

しんじゆ型の星輝石。おとめ座の《麦のピカ《穂さき》》。パン屋で働いてたときよく見た)

 迷いはない。なにせパン屋の仕事は五けんも経験済みだ。どこも三日以内にクビになったが。

 アステラは解答用紙に答えを書き込むと、すぐに次の石を取り出す。

(このオレンジ色のごつごつした石もパン屋で見た。パブにもよくある。パンとビール……麦に関係する星……ってことは麦星? 正式な名は、うしかい座の《アルク熊のトゥルス《番人》》)

 周りの受験生が一つも答えを出せないでいる中、見ただけでするすると答えを引き出していくアステラ。試験官たちも目を留め始めたが、彼女はそんなことにも気づかず、

(この石は、びんや水差しに入れておくと水のはいを防げるって、病院で働いてたときに教えてもらった。瓶……水差し……。じゃあきっとみずがめ座の星ね。あった、《サダ王のルメ《守り》リク《星》》だ。それから……)

 アステラはその調子で同定を続け、なんと開始数分で、十個の星の名を当ててしまった。

 もちろん、一位通過だった。




(やっちゃった……)

 試験は目立たない程度に適当に乗り切る。本題はせんにゆう調査なのだから……そう考えていたアステラの計画は、すべり出しから大いにくるってしまった。周りの受験生よりはるかに早く問題を解き、しかも全問正解だったアステラは、当然注目の的。ひとみの色がひどく暗いこともあり、試験しゆうりよう後もこうかいの視線にさらされて、聞き込みどころではなくなってしまったのだ。

 ようやく人ごみからのがれ、本部とうの裏庭に身を落ち着けたアステラは、植木のかげに縮こまってなみだになった。どうしてこう、何もかも予想外の方向に転がるのだろう?

(ロキさんがいてくれたら……)

 アステラは胸の黄色いペンダントに手をばし、ぐっと思いとどまる。

。もう寄りかからないって決めたでしょ。独り立ちするって)

 これはアステラが受けたらいなのだから。アステラは今、夜の鯨にためされているのだから。のっけから海がおおれでも、自分のかいで進まなければ。

(それに、こんな姿ロキさんに見られたら、きっとまた鹿にされる)

『目立たずにすみでじっとしてるだけのことがどうしてできないんだ、お前は観葉植物以下だ』と、いつものようにしかりつけるロキの声がありありと聞こえてくる。皮肉屋の青年の顔をなるべくいやみっぽく思いかべて心を奮い立たせようとするけれど……、どうもうまくいかない。

(……会いたい)

 そのおもいの方が大きくなってしまう。やっぱりどうしたって心細くて。

 アステラがしゅんとかたを落とした、そのとき。

おそろしい速度だったね。判別チャートを使って最速で解いたとしても、数倍はかかる」

「え?」

 とつぜん後ろからかかった声に、アステラはびくっとふるえ、り返る。

 そこに立っていたのは、細身で背の高いせいどうだった。アステラはあわてておする。

「才能あるよ、君」

 相手はきゅっと目をすがめて笑った。黒いたんぱつけもののように好き勝手に飛びねており、強気そうな太いまゆも相まって、野性みあふれるようぼう。そして三白眼気味の瞳は、はっとするようなしんだ。危険なふんがただよう流し目から、すさまじい色気が垂れ流しになっている。

「いったいどこで習ったんだい?」

「あの、別にどこかで習ったわけでは……」

 ありとあらゆる仕事をしてきたので、星輝石をいろんなところで見ているというだけのことだ。その分ありとあらゆる仕事をクビになったのだが……なんて、言えるわけもなく。

「まあ、その、経験則というか……だから才能とかはあの、ないです」

 あやしまれたくなくて適当ににごそうとするアステラ。

けんそんは美徳だけど、まさか本気でそう思ってるわけじゃないだろ?」

「え?」

 くろかみの星導士は不敵にみ、ポケットから何かを取り出した。

「例年、一次試験は星輝石の同定だ。十個の石の中に、必ず一つ、ひっかけが入ってる」

 わたされたのは、まめつぶほどの大きさの、黄みの強いだいだいいろの結晶。さっきの標本箱の中にあった星輝石だ。

「うみへび座のアルファルドと、おひつじ座のハマル。せんたくには二つの名があったね?」

「ええ、確か……」

「他の石すべてを正しく答えると、必ずどちらも選択肢に残るようになっている」

 何を言いたいのか、アステラがつかみかねていると、

「この二つの星はね、色温度がほぼ同じで、明るさにもそれほど大きな差がない。だから星輝石は色も結晶構造も条痕もきわめて似ていて、比重で比べるしか判別方法がない」

 アステラはそこで顔を上げた。気づいたね、と、満足そうな笑みが返ってくる。

「比重の測定には専用の器具が必要だからね。実を言うと、あの試験会場では絶対に確実な答えを出せない問題なんだ」

 こちらを試すような視線に、アステラはまごつく。

「そ、そんなの……、じゃあ、どうやって判別すれば」

「おや、でも、君はやってのけたじゃないか」

 アステラは目を見開いた。確かに、試験会場ではほとんど無意識に答えを出したけれど……、自分はあのとき、何を考えていたんだっけ?

「だって」

 明確なこんきよなんかなかったかもしれない。でも、理由をあえてつけるとすれば。

「この石、暖色なのにさみしい光。すごく冷たくて、熱を欲しがってるように思えるんです。だから、周りに明るい星がなくて、一つだけぽつんと目立つ《アルファ孤独なルド《もの》》だろうなって」

 アステラの声はじよじよに小さくなっていく。

(なんだかずかしい。こんなの、私の勝手な印象でしかないのに)

 赤くなるアステラを前に、星導士はゆったりとうでを組んだ。

「そういうの、学院ここじゃ、星の声を聞くって言うんだ」

「え?」

「人と同様、星には性格や個性がある。友人の話に耳をかたむけるように……、星の声を聞くことが、ほしほう研究のだ」

 星の性格や個性……感覚的には、分かる気がする。星導士になるためにはそういう力が必要なのだろうか。星の声を、聞く力が。

「君の直感は正しいよ。その目を大切にしたまえ」

 どうやらめられているらしい。おずおずと頭を下げながら、アステラは思った。

(……というかこの人、どうして試験の内容まで知ってるんだろ?)

 アステラがこんわくしていると、黒髪に赤い瞳の星導士はさらに彼女に近づき、ゆったりと首をかしげて、問うた。

「君の名は?」

「あ、アステラです……」

「アステラ。私はアルデバランだ。ルディでいいよ」

「アッ!?」

 その名を聞いたとたん、アステラは目を丸くして、馬鹿みたいな声を上げた。

「ちょ、ちょっと待ってください。アルデバラン? おうし座の……い、一等星……?」

 アルデバランといえば、冬の空の王者オリオンにおどりかかるきよだいなおうし座の一等星だ。勇ましいおうしの目のあたりでぎらつくこの星は、オリオンのベルトの三ツ星を北西の方向に伸ばしていけばすぐに見つかる。燃えるような赤がひときわ目立つ星。

 と、いうことは。

「あなたも一等星の子……? 次期てんてい候補ってことですか?」

「ああ、一応ね」

 めまいがしそうだ。天都ではっ立っているだけで一等星の子にぶつかるのか。

「試験会場で見てたんだよ。見込みのありそうな子は、ぜひうちの研究室にかんゆうしたくてね」

 ルディはうすくちびるをきゅっと持ち上げると、ぐいとアステラに顔を寄せた。

「君、なんだかおもしろいね。お茶でもどう?」

「ちょ、近い……」

 アステラはルディの胸に手をついて遠ざけた。色気がだだれで心臓に悪い。

「今夜の宿に困ってるんじゃない? 都合するよ?」

「え、なんで私がまだ宿探ししてないって知ってるんですか?」

「へえ、まだ宿探ししてないんだ」

「うっ、きようですよ……!」

 平然とかまをかけたルディは、案の定ひっかかったアステラに笑いかける。

「アステラ、君って本当に可愛かわいいね。悪いこと言わないからうちにまりなよ。ゆっくりお話ししよう、どうせ来年になればこうはいだ」

 ルディはアステラが合格するものと決めてかかっているらしい。アステラはなんと答えてよいやら分からないけれど、確かに宿はないのだった。

(考えてみたら、一等星の子とお近づきになれるのは好都合なんじゃ?)

 どうも目の前の星導士はすけこまししゆうぬぐえないのが不安ではあるが、例のシリウスについて何か聞き出せれば、取り上げられたせいせきの在りの手がかりになるかもしれない。

 アステラはつばを飲み込むと、かくを決め、背の高いルディをうわづかいで見上げた。

「あ、あの……、おじやさせていただいて、いいですか」

「もちろんだよ!」

 赤い瞳の星導士はようえんな笑みで答えた。

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