プロローグ


プロローグ



 人はだれでも、星の光をいて生まれてくる。

 青白い星もあれば、赤くぎらつく星もあり、きようれつに燃え盛る星もあれば、目をらしても見えないほど暗い星もある。けれど、どれも確かに光を放っている。自分だけの光を。

 星の光は迷える人を導き、悲しむ人をなぐさめ、戦う人をする。広い夜空の海でおぼれそうになったときは、進むべき航路を示す灯台になってくれる。

 星の光は、未来を照らす希望だ。

 だから、自分の星を信じるんだ。




 でも、アステラは。

「お前」

 アステラの、星は。

「本当に何も覚えてないのか?」

 五年前、最初のおくはその言葉。その人はしゃがみ込んで、こちらに手を差しべた。

「俺は便利屋のロキ。お前をしばらく預かることになった。……『夜のくじら』のらいで」

「夜の鯨?」

 アステラはみような通り名にぴくりと反応した。聞き覚えがあるような気がしたのだ。ばやく切りわるげんとうのように、ぼやけた連想が次々つながってゆく。夜の鯨、海、星、そして……、

「父さま?」

 気づけば、そう口にしていた。

「わたしの、父さま? 夜の鯨って言うの?」

 朝日の中に消えていく夢より速く、急激にかすみ始めるうすい記憶の雲。アステラはそれを必死に引き留めようとして、強く目をつむった。

「父さまは、また会えるって……ダイヤモンドの……ダイヤモンドの中の……あれ?」

 けれど、そこまで口走って、それ以上辿たどれなくなってしまった。父の顔も、ぬくもりも。さっきまで、小さな手のひらにしっかりとにぎりしめていたはずなのに。

「どうしよう……思い出せない」

 目の前に広がるのは、星のない夜空。

 いだうなばらには光もなくて、アステラの船は完全に針路を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る