はじまりの出会い②
昼下りのうららかな陽気の下、真央と三子の本日の打ち合わせは終了。
これから三子の講義が終わるまで、二人は同じ講義を履修していたので幸い一緒にいることができる。
『ごちそうタイム』という名の至福の時間を満喫した真央は三子にうながされ、ノールックで椅子に置いたバックパックに手を伸ばす。
「まーちゃん、忘れ物は無いですか?」
「
先を歩き出す三子。
『ゾワリ』
――その時だった。
伸ばした指先に触れる違和感。同時に悪寒が襲う。
前触れはなかった。
違和感の方へ視線を移して、
「ひ、くッ。」
つい呻いてしまう。
《《大量に絡みついているのは髪の毛。》》
チャックは締めたはず。
なのに、開いている。
リュックの開口部より黒いそれが生えていた。
瞬間、大量に湧き出した髪の毛が左腕を昇ってくる。
気持ちの悪い感触に思考が一時停止して、反射で真央の喉が悲鳴をあげようと震える。
だが悲鳴をあげることも許さず髪の毛が真央を拘束し絡め取る。
獰猛に襲う黒い暴力に全身を縛り壊される。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
――はずだった。迫る得体のしれない髪の毛に冷や汗とともに真央がイメージした末路はしかし実現しない。
『シュン』
――紅い塊。
真っ赤なゴムの塊に似たソレが真央の手のひらに柔らかくぶつかって、
『ぐぅにゃり』
と、指の隙間を縫って行く。
(紅い・・・手?)
紅い手のひらと化した、糸の塊。
五指を模したスライムに似た手の感触が恋人繋ぎのように真央の指に絡んで行く。
手首から先だけ。
その指先が髪を捕らえ、
『AGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAA』
宙を舞う髪の毛。
――一本釣りの要領で投げ飛ばした!
リュックから悲鳴を放つ物体が天井にまでぶっ飛ぶ。
と湿った音を立て、床に叩きつけられた。
物体の叫びの残響、椅子が散乱する音が重なる。
激しい動悸の中、真央は片膝立ちでソイツに視線を送っていた。
立て続けにぶっ込まれた情報量が多すぎて思考がまとまらない。
床にふせて動かないソイツは、生首にしか見えなかった。
(あれ?もしかして・・・・・・。)
ピン、ときたその時。
生首がビクッとしてソロリとこちらを振り返る。
――女の生首が三度目の、歯を剥いたニヤニヤ笑いをたたえて。
ホールに点在するテーブル席やら客やらの隙間を滑走、長い髪の毛をひるがえして壁に溶けて消えた。
逃げ足が素晴らしく速かった。
(とあるGも真っ青な逃げっぷりであっぱれだね!)
――生首が消えても数秒フリーズしたままだった真央の率直な感想である。
真央の困惑度はうなぎ登りだ。
(あたしのさっきのビビリを返してほしい。)
一息吐く。
だが生首をスルーしてでも気になるのは髪の毛から真央を結果的に助けてくれた紅い手首だ。
その姿は幻だったかのように、失せている。
自分で言っててシュールすぎるがあれは手首にしか見えなかった。
(ストーカー、生首お化けに、手首だけの悪霊?とかてんこ盛りすぎやしませんかね・・・・・・。)
いっぱいなのはお腹だけで十分だよ、とひとりごちた時だった。
「おふっ?」
親友が気まずそうにこちらに視線を向けていた。
ついでに周りの客の多くがこちらを向いている。
観客のみなさん、こんにちは。
――時が止まっていた。
脂汗もだらだらだ。
はい、注目。
突然椅子を騒音込みでなぎ倒し。
横周り受け身で、決めポージングをキメる女。
なんなら物思いにふけっていたせいで決め顔にすらなっていたかも?
傍から見たら、変な奴だ。
あいつ、大丈夫〜?とか。
かまってちゃん?とか。
思いますよね。
あたしなら思いますよ。
誰だよ、その変人。
(――そうです!あたしです。あたしが変なオバサンです!!)
いまだ、お食事中の皆様の運動エネルギーは静止してしまっているのでしょうかね。
無言の時間が終わらない。
だが、時は停まったままではいられないのだ。
「まーちゃん、大丈夫でぶっ、fghか?」
親友が噛みました。
(でも、この場を離れるチャンス!)
――三十六計逃げるに如かず。
あたしは三子の手を取り、その場から駆け出したのだった。
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