護人(まもりびと) 2
不可視の侵入者の右腕を癖毛の青年は一挙手で捉えた。
「保護を!」
青年の叫びが凍りついた時を始動させる。侵入者が、揺らぐ自由な腕を振るい、抜手で青年の喉を突き、踏み込んだ圧力で彼の足の甲を潰す。
が、青年は右手で突きを払いその肘を軸に返す刀で首側面に手刀を叩きこむ。敵の重心すら崩し攻撃を反らす。前のめりに倒れる侵入者。しかし、青年の空が回転する。永遠のごとき0.5秒にも満たない瞬間に思う。
足払い!
不覚。だが回転受身を取りつつ立ち上がる。構えをとり直す彼の左手には手品のように伸ばされた特殊警棒があった。
「月代ッ!」
自分の名で懸けられた怒号に対し右手の平を背にかざして応え、意識は敵からはずさない。
対象は既に扉の向こう。残った2人が警護している。
陽炎が蜃気楼さながらに空気を歪め、左肩をこちらに向けた俯くような人型を形づくり静止していた。
「……謎だが、俺の姿は完璧に見えているようだな」
初めて吐かれた威圧的なバリトンの声色が月代と呼ばれた青年を撃つ。
「話すなら依頼人と仲間の情報だけにするんだ」
月代は動じた様子もなく相手の顔の辺りを見据え警告する。
「どんなに楽しい時間でも、いつか必ず終わりが来るだろ? お前にとって今がそれだ。」
刹那、月代には襲撃者が口角の端を上げて笑んだのが確かに伝わった。
同時に眼前に拳が迫る。反射的に首を反らして交わし突いた警棒がただ空間を薙ぐ。再び、迫る拳。否、拳でなくその先には婉曲したナイフ。腕への掌打と脚への踏みつけで交わさんとするも襲撃者とシンクロのごとく互いの右脛が激突し、一歩距離が空き二人の脚部に痺れが襲う。図ったようにバックステップで互いに距離を置く。月代の瞳には陽炎に揺らぐ保護色の人型と唯一、陽炎の右手に鮮明に存在を主張するナイフが映る。すると陽炎が、握るナイフをプラプラと振り子のように遊ばせ出した。どちらかの息遣いが聞こえるような、ひりつく時間。見えない視線とぶつかり合う一瞬。
強い呼気と諸共に襲撃者が放つ左肩鎖骨へナイフの柄からの振り下ろし。転瞬、軌道を頬へ変えた刺突。軌道の分だけ首を反らし、側頭部を刃物の腹にぶつけ弾く。返す警棒で右脇に一撃、よろめく敵の膝への二撃目はしかし空を切る。
ー―忽然と、襲撃者の捕捉していたはずの姿が掻き消える。たたらを踏んでしまう月代。気配までもが、消えていた。驚愕にほんの僅か動きを止めてしまう。
ーーその耳で、わずかに拾った音。
雷光のように察しざま、足が床を蹴っていた。
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