33話「セイジを目指す理由」

「うわ……」

「凄いですね」

 

 幾ら魔物とは言え炎に包まれ悶え苦しむ姿はあまり良いモノじゃないって俺は思うんだけど、俺の隣にいるアリアさんはその様子ですら相変わらず表情一つ変える事無く淡々と眺めている。

 そう言えば、ランクの高い冒険者と何度も依頼をこなしてるんだからこの程度の事は見慣れてるに決まってるのか。

 

「ふふふ、どうですか? 私の魔法? 天才的でしょう? さ、ファイアー・ボールの術式を教えますね」


 今さっきまで地の底が見える勢いで落胆していたエリクさんが、アリアさんに褒められただけ得意気になった。

 そのテンションを保持しつつエリクさんがアリアさんにファイアー・ボールの使い方を教えた。

 エリクさんの説明に対して、最初は難しい顔をしていたアリアさんだったがすぐに彼の言ってる事を理解し飲み込んだようだ。

 じゃあ、試しにと目の前に炎を出す様にエリクさんが促したところ、無事アリアさんの目の前に炎の玉が産み出されるとしばらく虚空をゆらゆらとさまよった後フッとその姿を消した。

 第一段階は成功の様だ。

 

「流石ですね、ではカイルさん、我々の前に立って下さい、アリアさんは魔法がカイルさんに当たらない場所に移動して下さい」

「はい」


 エリクさんがにっこりと笑顔を見せながらアリアさんを褒め、それに対してアリアさんは本当に僅かながらだが口元を緩ませていた。

 へぇ、アリアさんもこういうのは嬉しいんだね、それにしても、エリクさん教えるのが好きなのかなぁ?

 俺が知ってるエリクさんとは違って生き生きとしている様に見える。

 

「アリアさんの魔法では恐らく魔物の注意を引き付ける程度になると思いますので、その後のフォローをカイルさんにお願いします、この際アリアさんだけでなく僕にも魔物を行かせ無い様にお願いします」

「分かりました」


 前衛の俺が盾になり、後方に居る味方に敵を行かせない様にして味方を自由にする基本戦術で、今回は前衛1人に対して後衛2人を守るってちょっと難しい。


「では、アリアさん魔法をお願いします」


 エリクさんが猪型の魔物を指差しながら言った。


「はい」


 エリクさんの合図の元、アリアさんは『ファイア・ボール』の詠唱を始めた。

 一方の俺は、魔物が俺を突破してエリクさんやアリアさんを攻撃しない様に意識を集中させた。


「ファイア・ボール」


 覚えたてでもあり、やや長めの詠唱時間を経てアリアさんが手に持つ杖の先から小さな火の玉が放たれた。

 

「おおー」


 思わず俺は声を上げたが、ルッカさんがが放つそれよりも小さい火の玉であった。

 

「グルル?」


 アリアさんが放った『ファイア・ボール』の直撃を受けた魔物は首を左右に振って術者を探し出した。

 やはり、あの程度の大きさではダメージすら与える事が出来なかったみたいだ。

 

「ここからは俺の出番だ」

 

 俺は自分達に気が付いた魔物の攻撃に備えて盾を構えた。

 それと同時に、魔物が地面を強く蹴り俺に向かって突進した。


「グルルル!!」

 

 雄叫びを上げながら突進する魔物は、自分の身がどうなっても構わないと言わんばかりに早い。


「ぐっ!」


 それでも尚、盾を使い受け止めるもその衝撃は凄まじく、思わず顔を歪めてしまった。

 しかし、物凄い勢いで俺の盾に突っ込んだ魔物も無事と言う訳では無く、ノックバックし僅かながら宙に浮いていた。

 その隙を俺は逃さず、魔物の下方向から鋭い蹴りを入れた。

 

「グギャギャギャ!?」


 魔物は何が起きたのか理解出来ずその身を宙に預ける事となった。


「流石ですね、さ、アリアさん今の内に魔法をどうぞ」


 最初の魔法を撃った後すぐ次の詠唱を始めていたアリアさんに対してエリクさんが合図を送った。


「はい」

 

 再度アリアさんが魔物に向けて『ファイア・ボール』を放つと、それを食らった魔物が一瞬アリアさんの方を見た。

 

「こっちだ!」


 その瞬間俺が再び魔物を蹴ると、自分が魔法を受けた事を忘れ俺に向かって突進した。

 どうやらこの魔物は馬鹿らしく、最後に自分を攻撃した者しか意識に残らないみたいだ。


「カイルさんどうぞ」

 

 そのやり取りが何度か続いたところでエリクさんが俺に合図を出した。

 よし、折角だからまずは魔法剣の練習をしてみよう!


「分かりました」


 俺は左手でファイア・アローを作成し、右手に持っている剣に放ってみたが、どうにも上手くいかない。

 

「カイルさん?」

「え? あ、いや、はい!」


 エリクさんが、俺に対して何をやってるんだ? と言いたげにしている。

 やっぱり無理だったか、仕方ない、普通に斬ろう。

 俺は目の前に居る魔物に対して斬撃を放つと、魔物は暫くのたうち回った後魔石へと変化した。


「もしかして、魔法剣ですか?」

「は、はい」

「そうですか、アロー系の魔法では魔法剣を完成させるのは難しいです、他の魔法を会得する事をお勧めしますよ」


 確かに、エリクさんの言う通り、幾ら魔法とは言え矢を剣にぶつけたところで上手かないよね。


「例えばどんな魔法がありますか?」

「エンチャント・ファイアが初歩的な魔法剣になりますし、ファイア・セイヴァーですと中級レベルの魔法になりますからその辺の会得が良いと思います」

 

 丁寧に説明するエリクさん。

 確かにその辺りの魔法は聞いた事がある、あるけど……そんな事をわざわざ仔羊様が教えるのか? と考えると疑問に思ってしまう。

 

「なるほど!」

「一応、マジック・ナイトという特殊クラスになれば、それら魔法剣用の魔法を使わなくとも例えばファイア・ボールを剣に宿せますし、それこそファイア・アローでも宿せてしまいます」


 うーん、そう聞くと、今説明したやり方と言うのが俺が覚えるべき魔法剣なんだって思う。

 しかし、問題はその中でも比較的簡単そうな魔法を扱えるかといわれたら、ぱっと考える限り全く浮かばない。

 そうなると、先に合体魔法の会得を進めた方が良いのかな?

 

「有難う御座います!」

「いえいえ、私の知識で宜しければいつでも教えますからお気軽にどうぞ、では戻りましょう」


 アリアさんの攻撃魔法練習を終えた俺達はギルドハウスへ戻った。

 

「そう言えば、なんでまた攻撃魔法を覚えようと思ったんです?」


 プリーストのセオリー通りハイプリーストを目指した方が効率良さそうに見えるんだけど。


「貴方には関係無い」

「そうですか、俺はただ何でも出来るより特化した方が強いと思っただけですけど」


 あくまで学校でトップの成績を収める為に様々な分野を会得したけど、ルッカさんの範囲魔法見るだけでも一つの分野に特化した方が良いと思う。

 勿論、一人でなんでもやれて他人に依存しないスタイルなら俺みたいになった方が良いんだけど。

 

「その考えは間違いじゃない、けれど、それは誰かに依存しなければならない、何でも出来ると言う事は他人に依存しなくても済むと言う事」

「え?」

 

 いつもの様に素っ気無くあしらわれると思っていたが話が続くみたいだ。

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