32話「アリアさん、セイジを目指す」
翌日、ヴァイス・リッターギルドハウスにて。
「ねぇ、カイル?」
「うん?」
ルッカさんが、俺の袖を引っ張りながら上目気味の視線で呟いた。
「エリクさん……」
「そうだね、昨日色々あったし、心配だね」
一応あんな成りでも意外と人を心配するみたいだ。
ったく、いつもこんな感じなら良いのに!
「うん」
「俺、様子見て来るよ」
はぁ、そんな事言っても仕方ないよね、エリクさんは昨日色々な事があったからね、エリクさんが居ると思う勉強ポイントへ向かおうか。
「ははは、昨日はこんな事があったんですよ!」
「そう」
俺がエリクさんの事を心配しながら勉強ポイントへと向かうとそこにはアリアさんに対して意気揚々と話をするエリクさんの姿があった。
……何だよ、随分と元気そうじゃないか、これじゃ心配して損したじゃないか。
「いやーはっはっは、これはこれはカイル君じゃないですか! 丁度いい所に来ましたね」
「ルッカさんに言われて来ただけですよ」
「そうですか? 僕はこの通り大丈夫ですよ」
「それは安心しました」
それにしてはみょーに元気そうで逆に不安になってくるんだけど……。
「今これから、アリアさんに攻撃魔法を実践形式で教える所だったんですよ」
「それなら、折角なのでお願いします」
ああ、だから妙にご機嫌だったのか。
てーか、この人セリカさんどうのこうのじゃなかったっけ?
まぁ、敵対してる人で二度と会えない可能性の方が高いから仕方ないけどさぁ。
俺は心の中で深いため息を付いた。
「そこで、僕の魔法がジャイアント・ゾンビに直撃して……」
「そう……」
俺の了承を得た後も昨日の話を武勇伝として語ってるなぁ。
しっかもすっげーにこやかだし、一方のアリアさんは真逆で全く興味関心が無さそうだ。
しかし、プリーストのアリアさんが攻撃魔法覚えたいってどういう事なんだろう?
プリーストだったら、その上位職なハイ・プリーストを目指す方が自然だと思うんだけど。
一応、プリーストが攻撃魔法も扱える様になればセイジって上位職目指せるんだけど、ウィザードが回復魔法覚えてセイジになるパターンに比べて圧倒的に少ないって聞いた事あるんだよな。
でもさぁ、もしも昨日みたいな展開になった時プリーストの人がいてくれた方が有り難いし、それでいて攻撃もしてくれるなら尚更すごいって思う。
あーそうそう、俺はどうしようかな? 折角だしこの前仔羊様から言われた合体魔法の練習をしようかな?
「でも……助けれそうな人を助けられませんでした、僕は攻撃魔術しか扱えませんから……」
「はい」
「ははは、終わった事を悔やんでも仕方ないですよね! さ! 行きましょう!」
「お願いします」
やっぱりエリクさんは昨日の事を幾らか引き摺っているみたいだった。
それにしても、そう言われても表情一つ変えないアリアさんも気になると言えば気になるけど。
それはそうと、俺達は冒険者ギルドからランクDの人達が討伐する魔物の依頼を受け現地へ赴いたワケなんだ。
そう言えば、アリアさんと一緒に訓練出来るのか。 先日街中で見かけた女性と比べてアリアさんはやっぱり圧倒的に美人だ。
ふわりと宙になびくプラチナブロンドの髪が本当に美しさを引き出してると思う。
これでドギツイ言葉が飛んでこなければ最高なのかもしれないけど、それでも彼女を求める男は多いんだよな。
やっぱりプリーストってのが重要なのかなぁ? もしもこれでアリアさんがナイトだとしたらどうなってたんだろう? 少しだけ興味がある。
そんな事を考えながら、妙にご機嫌なエリクさんの会話をたしなみながら俺達はセザールタウンから少しだけ離れた森林エリアに近い場所にやって来た。
「カイルさん? やっぱアリアさんは美しいですよね!」
「いや、別にそんな事無いですよ」
アリアさんの性格考えると、多分こう言わないとキツイ言葉が飛んできそうだ。
「……そう」
うん? 気のせいかアリアさんが不満そうなんだけど。
「はぁ……カイルさんにはルッカさんがいますからね……いいですよね、ホント、羨ましいですよね、ホント、あ、ルミリナさんも居ましたよね、セリカさんだってカイルさんに興味深かったですよ? それだけ沢山の可愛い女の子たちに囲まれてたら、アリアさんに興味薄いのも仕方ありませんね」
ぱっと輝いたと思ったらどごーんと地の底に落ちていくエリクさん。
これだけ感情表現を豊かにして疲れないか? と疑問を抱いてしまうって、セリカさんが俺に興味抱いてたって何なんだよ、昨日対峙した時ぼろくそ言われたのにそれで興味持ってるって嘘でしょ?
「ルッカさんは勝手にライバル視して来るだけの暴力女ですよ」
「そう」
アリアさんがぶつける冷ややかな視線が少し気になるけど。
「うぅ……カイルさんにはルッカさんが居るんですから、セリカさんだけは手を出さないでくださいよぉ~」
「いや、だからルッカさんはそう言うのじゃないしセリカさんも俺は興味ありませんよ」
セリカさんって、大人しそうな見た目なのにすっげーぼろくそ言って来たんですけど。
うーむ、それがエリクさんの趣味なら止めないけど、ただ可愛いとかそう言うの優先してるだけなら止めた方が良いような気がする。
「あ、いや、その、今のは失言です……」
「そうですか……俺はあの娘に対して特に何も思わないので……」
「だから、男は信用出来ない」
ポツリと呟くアリアさんであるが、確かに自分に対してあれこれ言っておきながらも別の女の名前が出て来たとなればその気持ちも分かる。
エリクさん? もしかしなくても今の言葉が胸に刺さりましたか? 何故か胸元押さえてますからきっとそうなんでしょうね。
「は……ははは、さて、ここらで訓練を始めましょうか、あはははは」
「はい」
アリアさんからキツイ一言を受けてぽっきりと心を折ったエリクさん。
一方のぽっきりと心を折ったアリアさんは何の感情も無く淡々としている。
いや、ある意味すごいなって思うけど、ここまで物事に無関心なのもアリアさんの魅力なんだろうか?
「はぁ……カイルさんは前衛力向上の訓練をしましょう。 カイルさんがウィザードと組んだ時、またプリーストと組んだ時を意識して動いてみましょう」
「はい」
そりゃー、俺はナイトだからそうなるよね。
折角だし魔法剣や合体魔法の練習をしてみようかな?
「アリアさん、魔法で攻撃する時の基本ですが相手に気付かれ無い様に詠唱を終わらせ、理想は初撃で倒す事ですが、自分の懐に潜られるまでに倒せれば大丈夫です」
「はい」
エリクさんが攻撃魔法についての説明をしたが、これ位の事はアリアさんもプリーストをやって来た中で把握している様だった。
「あそこに魔物が見えますよね?」
エリクさんは狼型の魔物を指差しながら言うと魔法の詠唱を始めた。
「これは炎の魔法で最も簡単な魔法で、これを目標に向かって撃ちます」
エリクさんは目標の魔物に向かって『ファイア・ボール』を放った。
直後、ルッカさんが放つソレよりも大きな火の玉が魔物に着弾しその身が炎で包み込まれた。
魔物は、断末魔の叫びを上げながら地面を暫く這いずり回った後に力尽き果てた。
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